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【2020.11.09更新】

最近、よくTHREE DAYS GRACEを聴いてる。近作『OUTSIDER』(2018年)だったり、2nd『ONE-X』(2006年)だったり、4th『TRANSIT OF VENUS』(2012年)だったりと、その時々の気分で新旧の作品をランダムに。うっすらダークで適度にラウドでヘヴィなサウンドに、メランコリックなヴォーカルとメロディが乗るスタイルはいい、耳と心に残るものだ。カナダはオンタリオ出身の4人組の彼らは、母国やアメリカでWミリオンセラー、トリプルミリオンセラーを叩き出し続けるなど完全に人気を確立してる。しかし、ここ日本では知名度からしてイマイチで、なかなか実績も伴わない。よって、来日公演もこれまでに一度しか実現してない。そのライヴリポを2007年7月31日発行のGrindHouse magazine Vol.43に掲載した。ここに再公開する!

Written by Hiro Arishima
Photo by Yuki Kuroyanagi
July 1, 2007 at HARAJUKU ASTRO HALL, Tokyo

ここ数年、USロック界によろしくない傾向がある。とあるバンドの作品が50万枚、100万枚以上売れてブレイクしたとする。当然、次作に熱い視線が注がれ、期待も寄せられる。だけど発売直後こそ勢いよくチャートに飛び込み、いい動きを繰り広げるけど持久力がなく、セールスも前の作品を下回るという傾向だ。現地の関係者も頭を悩ませてると聞くけど、このカナダ出身のTHREE DAYS GRACEにはそんなことはどこ吹く風、まったくもって無縁だ。デビュー作『THREE DAYS GRACE』(2003年)は、いきなり150万枚以上売れるヒット作に。そして、続く2枚目の新作『ONE-X』(2006年)も発売から1年強経った今90万枚近いセールスを計上中など、彼らが一発屋的フロッグバンドじゃなく正真正銘の本物バンドであり、異国アメリカでの人気、評価も不動のものにしつつあることが窺える。
その彼らが初来日した。ちょっと変則的なツアーで、東京で通常のライヴを1回行った後、長崎県佐世保市にある米海軍基地を慰問ライヴで訪れるものだ。場内は満杯で暖かい雰囲気が開演前からすでに満ちてた。そんななか夜7時過ぎに客電が落ち、場内が暗転するや歓声が上がり、メンバーが登場。“Animal I Have Become”でパフォーマンスは始まった。のっけから観客は大騒ぎだ。“Riot”“Time Of Dying”と『ONE-X』からの楽曲が続き、アダム・ゴンティア(vo,g)が客席にマイクを向けると大合唱となり、観客がこの夜を首を長~くして待ち焦がれてたことをより印象づけた。
きちんとツアーをこなしてきたバンドだけあり、さすがバリー・ストック(g)、ブラッド・ウォルスト(b, vo)、ニール・サンダーソン(ds, vo)というバック陣のプレイは安定してた。ライヴ特有のリアルなヴァイブも放ちつつ、アダムとニールによる二重美麗ハーモニーも◎だった。しかしながら、始終目を奪われたのは、やはりアダム。ときにギターを弾きつつ歌い、また曲によってはギターを置きヴォーカル1本に専念するなどして魅せ、曲間MCも頻繁に入れ観客を惹きつけて止まなかった。セットのド真ん中にアダムのピンによるアコースティックセットがあったのだけど、披露されたのはクリス・アイザックの“Wicked Game”のカヴァ-!映画『ワイルド・アット・ハート』(1990年)のテーマ曲ともなったクリス最大のヒットで、車のCMにも使われたことがある知られた曲だ。あまりにシブい選曲でシビれたけど、アダムの枯れた声色と、とつとつと歌うさまが原曲のイメージに意外や意外ピッタリだった。アダム、音楽的嗜好がかなり広く、深いと見た。
その後再びバンドセットに戻った。『ONE-X』収録曲“Never Too Late”の後に各メンバーの独演会が続いたり、デビュー作収録曲“Home”の間にFILTERの“Hey Man Nice Shot”(原曲は1995年発売のデビュー作『SHORT BUS』で聴ける)のカヴァ-がインサートされたりと思いも寄らない展開もあり、最後まで間延びすることも、テンションが下がることもない、充実したパフォーマンスで楽しめた。アンコールじゃ“Scared”“I Hate Everything About You”がプレイされ、トータル1時間強の初日公演は終了した。近いうちに彼らに日本に戻ってきてほしいと、心の奥底から思える夜となった。

以下は当日のセットリストだ。

01. ANIMAL I HAVE BECOME
02. RIOT
03. TIME OF DYING
04. WAKE UP
05. JUST LIKE YOU
06. TAKE ME UNDER
07. WICKED GAME(cover of CHRIS ISAAK)
08. PAIN
09. GET OUT ALIVE
10. NEVER TOO LATE
11. HOME~HEY MAN NICE SHOT(cover of FILTER)~HOME

〈ENCORE〉
01. SCARED
02. I HATE EVERYTHING

〈追記〉
アダムは4th『TRANSIT OF VENUS』を最後に脱退、シンガーはブラッド・ウォルストの兄弟であるマット・ウォルストに交代した。アダムは聴く人の耳と心になにかを残す実に印象的なシンガーだ。もちろんTHREE DAYS GRACEの作品もだけど、かつてアダムがゲスト参加したフィンランド出身のチェロ集団、APOCALYPTICAの“I Don’t Care”もお薦めだ。2007年発売の6th『WORLDS COLLIDE』収録曲だ。

さらに東京公演でカヴァ-されたクリス・アイザックの“Wicked Game”の原曲もムーディないい曲だ。

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