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【2021.03.22更新】

1990年代末から2000年代前半にかけての頃のメロディックヘヴィロックバンド、STAINDは本当にスゴかった。まさに“旋風”を巻き起こし、本国アメリカでの人気は強烈の一言につきた。2006年にそれまでのヒットシングル曲をまとめたグレイテストヒッツ盤『THE SINGLES: 1996-2006』(2006年)発売を機に、熱唱系シンガー、アーロン・ルイスは念願だったソロツアーに出た。そのライヴリポートを再公開する。2007年3月31日発行のGrindHouse magazine Vol.41に掲載したものだ。

AARON LEWIS, STAIND

JANUARY 13, 2007 at PECHANGA CASINO, Temecula, California

text by Miho Suzuki
photo by Micah Smith(FUSEMEDIA)
reconstruction by Hiro Arishima

昨秋、バンドキャリア初のベスト盤『THE SINGLES:1996-2006』の発売と、それに伴うツアーを終えた後、STAINDのアーロン・ルイス(vo,g)は年明けからソロアコースティックツアーに出た。アリーナバンドのSTAINDの楽曲を、アコースティックで、かついつもより近くで聴けるだけあって、チケットは各地で即完売。観戦したライヴはロサンゼルス郊外にあるカジノ内のシアターで行われた。都市郊外のカジノにはよくクラブやコンサート会場が併設されてるのだが、こんな辺ぴな場所に人が集まるのか?と半信半疑で訪れたら、カジノはラスベガス並みに大盛況。会場もちょっと正装した観客で一杯だった。場内は典型的な劇場で、椅子もフカフカで贅沢気分。そんな雰囲気とは裏腹に、アーロンはいつもと変わらぬ格好で登場し、ギターを手にステージ中央の椅子に腰かけた。「こんばんは!」の挨拶に拍手喝采が上がり、始まったのは全米No.1ヒット曲“So Far Away” 。原曲よりずっとしっとりした感じで、すごくいい味が出ている。後ろの席の人たちが曲が始まっても話していると、私の隣の女性が「静かにしてくれる?」と注意するほど場内は静かで、完全にロックコンサートとは異なる空気に包まれている。だが曲が終わって「Fuck you!(この言葉はときにいい意味としても使う)」と誰かが叫び、アーロンがニヤリとして「Yeah!」と応えたりする瞬間は、紛れもなくロックショウだ。続いて“Fill Me Up”。テンポを落とし、切々と歌い上げるバラードが胸にジーンと迫る。STAINDの楽曲はメロディが本当に秀逸だ。どんなにへヴィな曲でも必ずメロディが深く耳に残る。そういう曲がアコギとヴォーカルだけになると、より一層メロディの魅力と、アーロンの美しく雄々しい声が際立つ。ギターはコード中心で淡々と演奏されているため、主にヴォーカルが曲の感情の起伏を担っている。その緩急のつけ方がまた見事で、ドラマティックなのに大袈裟にならず、圧倒的な包容力を持ってひたすら心に浸透していく。すごい歌い手だ。
その上アーロンは曲間で親しげに冗談を言ったりして、自然と空気を和ませることもできる人だった。今回セットリストは毎晩その日の気分で変えているそうだが、ベスト盤に収録されたシングル曲の数々と、ALICE IN CHAINSの“Nutshell”のカヴァーのほか、1980~1990年代メタルのカヴァーメドレーもあり、SKID ROWの“I Remember You”などで場内を沸かせた。また後半ではクリスという友人がステージに登場し、「彼と一緒に15年前に作った曲なんだ」という紹介で「朝食代わりにポングで吸う」という“Pong Hits”を披露。アーロンのユーモラスな一面を垣間見せるこの曲に、観客は大喜びで歓声を送った。そしてアンコールの1曲目は“It’s Been Awhile”。静かに始まり、穏やかな合唱が場内に広がった。続く“Right Here”の後、懐かしいメロディの口笛をアーロンが吹き始める。歓声を浴びて囁くように「Patience!」と言って歌い始めたGUNS N’ ROSESのカヴァーは、再び合唱を巻き起こし、サビでアクセル・ローズ風のハイトーンで熱唱したアーロンに、観客は総立ちで拍手を送った。ラストは代表曲“Outside”で、再び温かい合唱のなかショウは幕を閉じた。
12年間、時代に流されることなくSTAINDが成功をとげたのは、アーロンの無類の声と曲のよさ、そしてどれ程売れても気取らない気さくな人柄によるところが大きいのだと改めて思い知らされた。このツアーは好評を得て4月まで続けられるが、その後発表される予定という初ソロアルバムが今から実に楽しみだ。

STAINDが本国アメリカでブイブイ言わせてる頃、アーロン・ルイスに何度か会い、取材をしたことがある。当時バンドはけっこう激しい音を出してたときだったけど、アーロンは物静かながらきちっと受け答えをしてくれる人という印象がある。バンドは2012年以降基本活動休止状態に突入。途中数回単発で活動したものの(2019年より本格的に活動再開)、そうしたバンドを取り巻く環境がアーロンをよりソロ活動へと導いたんだろう。音楽は完全にカントリーだ。ちょっと鼻にかかったような歌声で、絶品の歌唱を聴かせる。ぜひ、聴いてみてほしい。つくづく歌のうまい人だと思う。

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