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【2020.11.18更新】

3rd『THE BLACK PARADE』(2006年)が全世界的に本格的大ヒットの兆しが見え始めたとき、MY CHEMICAL ROMANCEは日本にいて東名阪を巡演、各地で喧騒を起こしてた。その最中の時期のライヴリポを再公開する。

Reconstructed by Hiro Arishima
Photo by Yuki Kuroyanagi
Jan 10, 2007 at ZEPP TOKYO, Tokyo

昨年リリースした最新作『THE BLACK PARADE』で、“マイケミ旋風”とも言える爆発的な人気を獲得したMY CHEMICAL ROMANCE。同作は本国アメリカで早くもセールス200万枚を突破し、日本でも10万枚を記録と、全世界を巻き込むその勢いは衰えることを知らない。もはやロックバンドとしての域を超え、ポップフィールドをも侵食し始めてる。新年開けたばかりの1月初旬、ZEPP TOKYOでの公演を皮切りに、東名阪を廻る彼らの単独公演ツアーが行われた。
公演初日を観たが、実はその前夜にいきなり大問題が発生。来日前から病気を患ってたフランク・アイエロ(g)の症状が悪化し、ひとりで緊急帰国することになったのだ。ライヴ中にもジェラルド・ウェイ(vo)がMCで語っていたが、レイ・トロ(g)とともにバンドサウンドの要となるフランクの離脱は痛く、この日のみならず予定されてた公演すべてのキャンセルも考えたそうだ。だがそこは親日家の彼ら。急遽代役を本国より呼び寄せ、ツアーの敢行を決意してくれたのだ。かくして、彼らと同郷のインディロックバンド、DRIVE BYのフロントマンを務めるトッド・プライス(vo, g)が代役ギタリストとして空港から直接会場に駆けつけ、プレイすることに。さすがにぶっつけ本番とはいかず、本格的なリハーサルをするために予定を変更。なんと開演時間が夜9時半に再設定された。会場を含めた各所で時間変更の事前アナウンスがされるも、夕方6時にはすでに会場前が人で埋めつくされてる。突然のこととは言え、決して会場から離れたりせず、寒空の下で3時間近くも待ち続ける、ファンのバンドに対する思いの強さには敬服した。
当初の予定から遅れること約2時間半。歴史的とも言えるステージが幕を開けた。待ちわびたファンが臨戦モードに突入するなか、突如場内が暗転し、続けておごそかなサウンドとともにステージを覆い隠す垂れ幕上部のTHE BLACK PARADEロゴをスポットライトが照らした。観客の悲鳴と歓声が交差するなか、幕の裏から最新作の1曲目“The End”のイントロが聴こえてくる。そのままの状態で1コーラス歌い、盛り上がったところで垂れ幕が落ち、ステージがあらわに。右からレイ、ジェラルド、マイキー・ウェイ(b)、トッドの4人がフロントに並び、後方にボブ・ブライヤー(ds)と、ツアーリングメンバーでキーボードの、THE GET UP KIDS、REGGIE AND THE FULL EFFECTとの活動で知られるジェイムズ・ドゥウィーズが構えるステージは、バンドロゴのバックフラッグのみというシンプルなセットだ。ただ、その絶妙な演出には素直に感動させられ、気づけば会場全体がヒートアップ。そして、アルバムの流れと同じく“Dead!”で観客の心を掴むと、ひと息入れて前作『THREE CHEERS FOR SWEET REVENGE』からの代表曲“I’m Not Okay (I Promise)”を披露するからもう大変。当然ながらフロアはモッシュ、ジャンプ、ダイヴの連発で爆発的な盛り上がりを見せる。正直、この選曲にはヤラれた。頭3曲で一気にこの盛り上がりを作ってしまう流れは、もはや反則とも言えるだろう。
この熱狂的な反応を受け、ステージ上ではジェラルドがまるでミュージカルや演劇、それにQUEENの故フレディ・マーキュリー(vo)をも連想させる雄大なパフォーマンスで観客を掌握。指揮者のごとく手や身体全体の動きでフロアで強烈にうねらせる様は圧巻だった。特に、50年代以前のモノクロ映画を連想させられる“Mama”での動きとその表現力は、まさに役者そのもの。そして、フランクの不在を埋めるべく、レイもまたエネルギッシュなパフォーマンスと弾きまくりのギターソロで強烈な存在感を放つ。母性本能をくすぐるプレイが特徴的なマイキーとリズムギターに徹したトッド、それに最新作で飛躍的に手数と楽器数を増やしながらも、常に正確なリズムを叩き続けるボブの3人が控えめなぶん、よりその動きに目がいく。楽しみながらではあったろうが、ジェラルドと合わせ、間違いなく3~4人ぶんは動いていただろう。2人ともこの段階で早くも汗を滴らせてた。
そして、やはりこの夜の最大の山場は最新作のリード曲“Welcome To The Black Parade”だ。大合唱から始まり、ボブのフィルインとともに全速力のパーティ状態に移行。フロアの前から後ろまで、性別も年齢も関係なく、会場に詰めかけた全員がバンドと一緒になって楽しむすばらしい空間が広がる。そうそう、続くメロディアスな“I Don’t Love You”での情熱的で引き込まれるジェラルドの歌声もまた見事だった。
後半はロック色の強い楽曲群を中心にたたみかけるようにプレイし、2階席にいた自分もしっとりと汗ばむ異様な熱気に。若干ステージがモヤがかって見えたのは、気のせいじゃないだろう。フロアの観客から発せられた蒸気が体感できるほど、会場内は熱かった。そんななか、唯一ポップで楽しげな“Teenagers”でのゆる~い空気がまた心地よい。80’s調のメロディが特徴的な“Famous Last Words”ではジェラルドが寝転びながら歌う熱のこもったパフォーマンスを披露すると、本編最後は“You Know What They Do To Guys Like Us In Prison”。イントロで観客の手拍子を誘い、アドリブで盛り上げてからプレイすると、最後は瞬間的に場内が暗転し、そのままメンバーはステージを後にした。
つかの間の休憩を挟み、アンコールに応えて再びステージに現れた彼ら。キーボードのジェイムズがピアノの音色を鳴らし、ジェラルドがしっとりと歌い上げる“Cancer”でパフォーマンスを再開。レイがベースを弾き、マイキーはタンバリンを担当。そして再びリズムに合わせて手拍子を誘うと、フィナーレはお馴染みの“Helena”だ。観客が思い思いのエモーションを爆発させるなか、まさに歌詞そのままに、とてもとても感動的な「Good night!」の大合唱で終演を迎えた。
ライヴが終わったのは夜10時半過ぎ。約1時間強で全15曲をプレイしてくれたわけだが、単独公演にしては演奏時間が少々短かったように思う。ただ、そのぶん内容は濃く、最新作と前作の2作品からの代表曲はすべて披露。また、フランクの代わりを務めたトッドの存在を考えれば、これが限界だったとも言える。時々ステージ脇のスタッフと向き合いながらプレイするなど、確認しながらの手探り状態な姿も見られたが、急遽駆けつけ、到着数時間後に“Cancer”を除く14曲をプレイしきったことは称賛に値する。彼の存在なくしてこの日の公演は成立しなかったのだから。
観るたびに演奏力と表現力、そして完成度を高めるMY CHEMICAL ROMANCE。10代中盤の若年層からスーツ姿のいい大人まで、年齢も性別も見た目も異なる様々な人たちが集まったこの日の客層と、そんな人々がひとつになって盛り上がる姿から、バンドの音楽が持つキャパシティの広さとそのすばらしさを改めて痛感した。残念ながら今回はフランク抜きになってしまったが、次の来日時の楽しみにもなった。必ず彼らはまた近々来日し、その勇姿を見せてくれるだろう。

以下は当日のセットリストだ。

01. THE END
02. DEAD!
03. I’M NOT OKAY (I PROMISE)
04. CEMETERY DRIVE
05. MAMA
06. WELCOME TO THE BLACK PARADE
07. I DON’T LOVE YOU
08. THANK YOU FOR THE VENOM
09. TEENAGERS
10. GIVE ‘EM HELL KID
11. HOUSE OF WOLVES
12. FAMOUS LAST WORDS
13. YOU KNOW WHAT THEY DO TO GUYS LIKE US IN PRISON
〈ENCORE〉
01. CANCER
02. HELENA


〈追記〉
上記した、フランクの代役を務めたトッド・プライス率いたバンド、DRIVE BY。すでに解散してるのだけど、マイケミとは同郷であり、同じマネージメントに所属、かつ一緒にツアーもしたことがあるなど、けっこう近しい仲だった。2006年唯一の作品『I HATE EVERYDAY WITHOUT YOU KID…』を残してる。Spotify、YouTubeにはあがってなくて残念だけど、世界最大手ネット通販サイトでCDは購入可能だ。

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