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【2020.09.02更新】

2004年3月31日発行のGrindHouse magazine Vol.23に、『METEORA』USツアーのニューヨーク公演のライヴリポートを掲載した。2003年10月の2度目の来日公演は大成功のうちに終了した。特に東京日本武道館公演三連発ソールドアウトは圧巻ですらあった。それじゃあ本国アメリカではどうなんだろう?と、同じツアーのニューヨーク公演の盛り上がりは?、ということでライヴリポートを掲載した。サポートバンド3組にも触れられてる。

文・村上ひさし
再構成・有島博志
写真・梨子田まゆみ

January 18, 2004 at NASSAU VETERANS
MEMORIAL COLISEUM, Uniondale, New York

もうマジで死ぬかと思うほど寒かったこの夜。マンハッタンから一番近い会場はここしかないというので、電車とバスを乗り継いで1時間半の距離にある同アリーナまで足を伸ばしたのだが、帰りのバスが来ない!しかもマイナス20度(!)極寒空で1時間も待つハメになり、もうトホホ。すっかりライヴのコトなんて頭から吹っ飛んでしまったよ、と言いたいところだが、これが熱かったのだ。リンキン・パークのツアーだから当然か。でも、のっけのストーリー・オブ・ザ・イヤーからもうスンゲー熱気と腕力ですっかり伸ばされっぱなしといったライヴだった。
そのストーリー・オブ・ザ・イヤーはミズーリ州セントルイス出身の新人5人組。一見フツーのロック・バンドなんだが、ちょっとコイツラ新人類っていうか、今までのロック・バンドって観念じゃ判読し切れないユニークな連中。人影もまばらだった会場は、最初のうちは彼らに対する反応も半信半疑で鈍かったのが、彼らがステージを去る頃には盛大な拍手と声援に包まれていた。というのも、彼らが“見せる”バンドだからだ。メンバー5人全員が思いっきり派手なアクションで、動けないハズのジョシュ・ウィルス(gs)ですらドラムセットの周りで動き回ったり立ち上がったり。なかでも派手なフィリップ・スニード(g)とライアン・フィリップス(g)は超ハイパーで、一瞬たりとも目を離せないのはもちろんのこと、極め付けはせーのっ!で2人一緒に飛び上がり、揃いのカンフーキック回し蹴りみたいなアクションをやってしまう。身体の周りでグルンとギターを振り回してみたり、突然バク転してみたりと硬派なロックバンドからすれば「なんじゃこりゃ?」なのだが、目が釘付けになるのは確か。それにどこをとってもバキバキに力強くて、テンションの高さはおっかないほどだ。さらにダン・マーサラ(vo)はメロディとシャウトの使い分けをし、スクリーモ的な硬派な部分も感じさせる。先輩リンキンの影響もなきにしもあらずだろう。つまり音楽的には決して軟派じゃないのだが、“見せる”ことに賭けているという不思議なバランス感覚を持ったバンドなのだ。ブリトニー・スピアーズとは違った形でコレオグラフされた動きを持ったバンド?アイドルブーム以降の新人類なのだなあと痛感する。また、メタリカの“エンター・サンドマン”のカヴァーをやるフットワークの軽さもある。こっちのTVでは“アンティル・ザ・デイ・アイ・ダイ”がヘヴィローテーション中。デビュー作『ペイジ・アヴェニュー』も聴きどころが多く、5月には来日公演も決まったのでぜひともチェック!
次に登場のフーバスタンクはもうすっかりお馴染みといった感じで、ステージに上がった途端暖かく迎えられていた。ラジオヒットを持つバンドは強いなあと実感。彼らの気さくな人柄を伝えるステージングは、「過去に書かれたもっとも優れた曲」とダグラス・ロブ(vo)が紹介してから披露したシンディーローパーのカヴァー“ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン”を始め随所から窺わせた。こういう遊びの精神が会場に暖かい一体感を届けてくれる。後半になってクラウドサーフが起こり始めたところで彼らのライヴは時間切れ。惜しまれつつも、すでに満杯となった会場の観客は満足げ。次なるバンドへの期待に胸を膨らませているようだった。
そして期待に違わず、一回り大きくなったステージを見せてくれたのがP.O.D.。1年半ほど前に観たとき、彼らはすでに『サテライト』(2001年)でブレイクしてたけど、まだクラブツアー中で成長期にあったせいか、観客とつながりを持とうとするのだけど、どうにも上手くいかない様子が歯がゆくもあった。ところが、すっかりビッグになって新作『ペイアブル・オン・デス』を引っ提げたこの日の彼らは実に堂々と貫禄を身につけていた。ソニー・サンドヴァル(vo)はステージ前方のファンと交流したり、ファンのなかに飛び込んで押し潰されそうになりつつも、アリーナの一番後ろにまでエネルギーを届けようという意思を確実に感じさせる。どうやって観客を操ればいいかを身体で覚えたといったところだろうか。スケールの大きい彼らのサウンドはまさにアリーナロックと思わせた。新入りのジェイソン(g)は小柄で、細目のルックスこそほかのメンバーとはかけ離れているものの、P.O.D.サウンドを実現するにはまったく不足はないようだった。むしろ彼らならではのメタル色を随所に持ち込んでいて、それをほかのメンバーも歓迎しているのだろう。ジェイソンだけによるギターソロの時間まで設けられていたのには驚いた。後半になるほどリズム面での単調さが露呈してしまったが、レゲエ調のリズムで時々空気を入れ替えたり、“ユース・オブ・ザ・ネイション”で10人ほどのファンをステージに上げて一緒に合唱させるなど、ステージングにも工夫が見られた。その合唱に関してはほとんどゴスペル隊のようで個人的にはクリスチャン色が鼻についたが、高揚感という点では否定しがたいものがあった。ヒット曲“アライヴ”でのダメ押し的な盛り上がりもラストに相応しく、爽快な気分を残してステージを去っていった。
そしていよいよリンキン・パーク。ナイン・インチ・ネイルズのナンバーばかりがBGMとしてかかっていた会場に、スクラッチ音が鳴り響いて始まったのが“ウィズ・ユー”。うわっ、これまでの出演バンドから比べるとメンバーの気持ちが身体ひとつ前に乗り出している。観客のなかに飛び込んでいこうっていう心意気がステージ全体から伝わってくる。気さくなMC(チェスター・ベニントンの「オレはゲイじゃないけど、みんなにキスしたい」発言など)にしても同様だし、ファンをステージに上げてメンバーと一緒に演奏させるっていう試み(凄く美味いファンがひとりいて“フェイント”は大成功!)からもファン思いな姿勢がひしひしと感じられる。サービス精神が旺盛というよりも、こういったファンとのつながりを持つためにライヴをやっているというのがよくわかる。ステージセットをはじめ構成などは昨年10月の日本公演とほぼ同じはずだが、以前にも増してマイク・シノダが重要な役割りを担っているのには目を見張った。進行役として、会場の煽動役として、そしてもちろんチェスターと二分する看板ヴォーカル兼MCとして大活躍。さらに自分のヴォーカルパートが少ない曲ではピアノを弾いてサポートまでして、一時たりとも手を抜こうとしない姿勢も印象的だった。こってり重厚なグルーヴを引きずるP.O.D.のあとだったせいか、ことさら軽快に感じられた彼らのサウンドは、たっぷり奥行きと空間のある心地いいものだった。やや飛ばし過ぎかなという箇所もあったけど、世界中をノンストップでツアーしている彼らの勢いがそのままサウンドとなっているかのように感じられた。彼らの快進撃は続く。つい先日もKORNやSNOOP DOGGらと共演するパッケージツアー“Projekt Revolution Tour”を発表したばかり。アンコールの“ワン・ステップ・クローサー”ではP.O.D.のソニーも一緒にラッピング!最後の最後まで見せ場を作ってくれて大満足。その和気あいあいとした温もりを懐に家路についた、と言いたいところだが、冒頭でも触れたように会場を一歩出たら外は大雪。凍傷になるかと思いながらブルブル震えていたっていうのも、今となってはいい思い出かな。

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