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【2020.09.23更新】

ストーナーロックなる音楽ジャンルが好きで、なかでもその代表格のひとつであるFU MANCHUが特にお気に入りだ。一時期、かなり追っかけてたという経緯があるほどだ。2007年5月31日発行のGrindHouse magazine Vol.42に掲載したライヴリポほかをここに再公開する。

文・有島博志
写真・マイカ・スミス
March 21, 2007 at Troubadour, West Hollywood, Los Angeles

FU MANCHUなる名前を出した瞬間「好き」と口にする人より「どこのどちら様?」と言う人の方が多いだろうから、まずはバンドの豆知識を。カリフォルニア州サンクレメンテ出身のストーナーがかった4人組ロックンロールバンドだ。活動20年を迎えたベテランで作品数はフル作だけでも新作『WE MUST OBEY』(日本盤未発売)を含めて計8枚。ジョシュオムの個人軍隊的性格を持つQUEENS OF THE STONE AGEの前身とも言える伝説のKYUSSとともにストーナーロック興隆に貢献、尽力した存在としても有名だ。余談ながらスコット・ヒル(vo,g)はロック界でもっともボーダー柄シャツの似合う男だ。
今回観たライヴは新作発売に伴うツアーの一環で行われたもの。彼らが勢いに乗ってたのは4th『THE ACTION IS GO』(1997年)、6th『KING OF THE ROAD』(2000年)、そして7th『CALIFORNIA CROSSING』(2001年)を出した頃、つまりひと昔前だ。新作では聴く者をいてもたってもいられなくする疾走感や、肌にピリピリくる緊張感は薄まり、円熟味すら出てきたこともあり、この夜はやや緩いライヴになるだろうと踏んでた。が、そんな自分が愚かだった。客席内は満杯で観客が発する期待感が熱に転化し、相当ホットな空間になってた。
10時15分、場内が暗転するや、一斉に客席から歓声が上がり、そのなかをメンバーが登場。ミニ作『EATIN’ DUST』(1999年/同)収録曲“Pigeon Toe”というあまりにシブい選曲にはシビれたけど、スコット、ボブ・バルク(g)、ブラッド・デイヴィス(b)、スコット・リーダー(ds/元KYUSS~UNIDA)がひとつになり、まるで大車輪が回るようにグイッ、グイッ迫ってくるパフォーマンスは強烈極まりないものだった。過去ロンドンと東京でライヴを観て汗まみれになりつつトバされた記憶が、今もなお自分のなかにイイ思い出として残ってる。あれからもう何年も経ち、彼らも年を重ねてる。先に記した通り、新作からは円熟味すら感じさせるのに、ライヴじゃ逆行するようにさらなる凄みを放ってるんだからホンとに驚いた。
“ストーナーがかった~”なんて書くと、ひとによってはドロドロした質感や、鬱積した重さを思い描くかもしれないけど、彼らにはそういうのは無縁だ。なにしろお里が、輝く太陽に青く透き通った海、コンバーチブル車に水着姿のおネエちゃん、サーフィンという5点セットの避暑地サンクレメンテだし、音楽的ルーツはメタルや80年代USハードコアパンクにあり、事実前身バンド、VIRULENCEはガッチガチのハードコアバンドだったというふうに、彼らはストーナーロックのイメージとはある種裏腹の快報感に満ちあふれ、ハードコアパンクならではの疾走感や緊張感を放つ。往年、彼らはスケーターから絶大に支持されてるけど、その理由はまさにそういったところにある。曲が進んでいくに従い、ステージは荒々しさを増し、フロアでは大小のカオスが渦巻くなどボルテージはどんどん上がっていった。“Evil Eye”などの代表曲でテンポの速いチューンじゃ、フロアにモッシュピットができたほど。この世にロックンロールバンドは星の数ほどいるけど、モッシュピットを作り出すことができる喚起力とヴァイブを放てるバンドはそうはいない。この夜、自分は年輪を幾重にも刻み込んだ緊張感、疾走感、開放感というとてもスペシャルなものを味わったような気がした。FU MANCHU――、6年ぶりぐらいに観たけど、やっぱり最高だった。

以下は当日のセットリストだ。

01.Pigeon Toe
02.Laserbl’ ast!
03.Let Me Out
04.Eatin’ Dust
05.Hung Out To Dry
06.Redline
07.Weird Beard
08.Saturn Ⅲ
09.Hell On Wheels
10.Grendel Snowman
11.Shake It Loose
12.We Must Obey
13.Evil Eye
14.Sensei vs. Sensei
15.King Of The Road
〈ENCORE〉
01.Godzilla ※cover of BLUE OYSTER CULT

続いて、有島が初めて雑誌媒体に寄稿したFU MANCHUの記事も再公開する。1999年12月発行の“幻”のGrindHouse創刊号だ。その号には“magazine”をつけてなかった。

まだまだアンダーグラウンドレベルでの出来事だけど、今欧米のロック界で“ストーナーロック”が注目され始めてる。うん、確かに勢いを放ち始めてるし、持つ力も徐々に大きくなってきた。将来有望なバンドもいくつか頭角を現し、この動きを“ムーヴメント”にしていくであろう、牽引車的存在の顔ぶれも出揃った。その筆頭株がQUEENS OF THE STONE AGE(元KYUSSの残党が結成。くれぐれも“きゅうす”と読まぬように:笑)。ビリー・コーガン直々のご指名で、昨年のTHE SMASHING PUMPKINSの全米ツアーのオープニングアクトを務めたほどで、只今メジャーレーベル数社による熾烈な獲得合戦の渦中にいるバンドだ。そして来年2000年にかなりのことをやり倒すであろう、このFU MANCHUにも大きな期待がかかる。来年1月26日にAvexより5枚目のオリジナルフル作『KING OF THE ROAD』を発売する。
FU MANCHUはパンク/ハードコアのメッカとして有名なカリフォルニア州オレンジカウンティ産で、来年結成10周年を迎えるというしっかりしたキャリアを持つ。が、フェンダーのジャガーを嵐のように掻き鳴らすギターチームのひとりボブバルクと、その後ろでワイルドなドラミングを聴かせるブラントビヨークが加入したのは、前フル作『THE ACTION IS GO』(1997年)からだ。彼ら流ストーナーロックがよりカッコよくなったのはそこから。不可思議かつカルト的な雰囲気すら伴うゴッツゴツしたプリミティヴなノイズが疾走感を放ちつつしなるように迫ってくるところなんてサイコーで、これぞまさに“トビ音”。ストーナーロックは主にハッパ(マリファナ)決めて、トンだ状態でやる(聴く)ロックのこと、と言われる。音楽的ブッとい根っ子は初期BLACK SABBATHなどにある。彼らも初期SABBATHの洗礼下にあるけど、同時にパンク/ハードコアやガレージロックからもインスパイアされてるから放たれてくる質感がザラッザラしてるし、とにかくいろんな意味で激しいのだ。MONSTER MAGNETとは毛色が違う。『KING OF THE ROAD』要チェキ作品だよ!(有島博志)

FU MANCHUまだ未聴という人には、ぜひ効いてほしい。バンドはこれまでに12枚のフル作を残してきてる。以下3作品が特にお勧めだ。

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