ARCHIVES

【2020.08.17更新】

2008年1月31日発行のGrindHouse magazine Vol.46に、5度目の来日公演のライヴリポートを掲載した。ここに再公開する。

文・宮原亜矢
再構成・有島博志
写真・畔柳雪子(YELLOWCARD) /神戸健太郎(LINKIN PARK)
November 24, 2007 at SAITAMA SUPERARENA

頂点のその先へ―リンキン・パーク、圧巻のさいたまスーパーアリーナ公演2日目詳報!!

2006年のZepp Tokyoを除けば、サマーソニック06のヘッドライナー、ライヴ・アースと、ここ近年は大きなイベントでの来日が続いたリンキン・パーク。約4年ぶりとなった単独公演は、こちらの期待以上の、スケールと興奮と感動をもたらしてくれた。今回のジャパン・ツアーの最初の会場に選ばれたさいたまスーパーアリーナは、収容人数によって観客エリアのスペースをフレキシブルに変えることができる。2003年にリンプ・ビズキットが同会場を使用した際には、座席エリアを増やし、シートを貼って、ステージとの距離が間近に感じられた、いちファンとしての悲しい思い出とは明らかに対照的なほど、リンキンの場合は最大限のスケールで設営されてる。モニターでステージを眺めると、まるで海のような広さ!実際に足を運んでみると、大観衆の熱気と広大なスケールに、ただただ圧倒された。前日の23日は2万人を収容したそうだが、筆者が足を運んだ公演2日目は、土曜日ということもあって、それを上回る人数が集まっていたように思う。
17時の開演時刻を過ぎてまず現れたのは、今回のジャパン・ツアー全公演をサポートするイエローカード。
23日はライアン・キー(vo,g)が1人弾き語った“オンリー・ワン”を挟んだようだが、24日は“ウェイ・アウェイ”や“テイクダウン”を加えて、オーディエンスの熱温を上昇させるセットリストへ変更して、テンポダウンしても体を揺らすには十分なリズミカルさを十分キープしていた。破壊力とバネが同居するLP(ds)のドラミングは、この日もイエローカードのサウンドを一言ポップに括らせない、無骨さと洗練さのちょうどいい狭間を縫っていく。来日直前に発表されたピーター・モーズリ(b)の脱退は少なからずショックではあったが、今回のツアーをサポートしたジョシュア・ポートマンは、ショーン・マッキャン(violin,vo)の心暖まるフォローを受けながら、バンドの雰囲気に自然と溶け込んでくれたこともあり、ネガティヴな空気を感じさせないアグレッシヴなステージだった。サポートとはいえども、ご存知のようにここ日本でも確固たる人気を持つ彼らである。巨大な会場をもて余すどころか、開演早々カオスを生み出していた。
19時21分、白い幕で覆われたステージに6人のシルエットが浮かび上がり、一気に内蔵をわし掴むかのようなものすごい音圧とともに“ワン・ステップ・クローサー”でリンキンのステージが始まった。幕が下りると、近未来の物見やぐらのように組まれたメタリックなステージに立つ6人を前に会場の隅々までが揺れた。いや、“鳴動した”と言った方が正しい。あればうれしいけど、ついついチェスター・ベニントン(vo)の美しさに見とれてしまいがちなモニター・スクリーンがなかったことで、メンバーの表情を詳細にとらえることはできなかったが、むしろその環境だったからこそ、例えば2曲目の“ライイング・フロム・ユー”で放たれた黄金の空のような光と、「空に向かって手をあげて」とのマイク・シノダ(vo)の言葉に呼応して伸びた、後方の手が作り出した圧巻の様を見逃すことがなかったように、ステージ全体からリリースされる様々な絶景を楽しめたように思える。10曲目の“フロム・ザ・インサイド”でステージ背面の幕が下りた瞬間に現れた“LP”のロゴマーク、“サムウェアー・アイ・ビロング”でのグレイの空や、目がくらむほどのまばゆい光が放たれた“ウェイク”など、広い視野で見せる工夫に、彼らならではの聡明で機知に富んだ配慮を感じた。チェスターの「ライトを点けて」や「ウシ~~~ロ」の呼びかけで生まれたオーディエンスによる光の海は街中でともり始めた、けんらん豪華なイルミネーションが陳腐なものに思えるほどの感動的な美しさで、心に深く刻まれた方も多いだろう。『ハイブリッド・セオリー』(2000年)と『メテオラ』(2003年)で自らのスタイルを確立したにも関わらず、最新作『ミニッツ・トゥ・ミッドナイト』を旧知のファンから否定の声が上がることも承知の上で、これまでのイメージから飛び出す楽曲の多い、ジェネラルなロック・アルバムに仕上げたリンキン。リリース前にチェスターが「前2作と同じタイプの曲を作ろうと思えばいくらでもできる。でも、繰り返したくない」ときっぱり話していたし、今回のツアーでマイクとブラッド・デルソン(g)に話を聞くことができた際に、「ライヴを見て、あなた方がどうして今回のような最新作を発表したのかが分かりました」と言うと、マイクは「すごくうれしいよ」と会心の笑みを浮かべ、ブラッドは「前2作と今回のアルバムを融合させることによって、俺たちはより新たな次元に突入することができたんだ」と、満足げに語っていた。歌に重点をおいたステージだったが、それ以上に彼らが身に付けたアーティストとしての成長を表現したもので、そのために必要なマテリアルこそが最新作なのだと、今回のツアーへ足を運んだ人は身をもって感じたのではないだろうか。それを裏付ける一例として挙げたいのが、“プッシング・ミー・アウェイ”から“ブレイキング・ザ・ハビット”の1番までを大胆にピアノの弾き語りヴァージョンに変換し、そこにバンドが加わっていくアレンジ。前2作で人気の高い両曲に新たな魅力を与えていたばかりか、両日ともアンコールで披露していた。(個人的には)最新作からでもっとも驚かされたのは流麗なスロー・チューン“ザ・リトル・シングス・ギヴ・ユー・アウェイ”が浮き立つことはなかった。
また同曲でハリケーン・カトリーナで被害を受けたニューオリンズの惨状を、次いで演奏した“ワット・アイヴ・ダン”ではMVで表現したように、バックスクリーンに世界で起こる嘆かわしい現状などが次々と映し出され、彼らが積極的に行っているボランティア活動の一端が伝わったが、(当時)彼らがそれを決して口にすることがなかったのは押し付けがましさがなく、好感が持てた。
さらに好感度が増した瞬間をふたつ。ひとつは“ブリード・イット・アウト”のスペシャル・イントロとしてジョー・ハーン(dj)がスクラッチで三三七拍子を披露、観客もそれに合わせて手拍子を打っていたが、スクラッチの拍子が乱れ、グチャグチャになったシーン。結局は力業で修正し、おなじみの曲のイントロへ突入すると、会場全体がひとつとなり、めずらしくロブ・ボードンがドラム・ソロを披露して、クライマックスとしてすばらしい曲だった。ジョーのサービス精神に感謝の意を込めてあえて記しておきたかった。他の会場でも成功したのだろうか、ちょっと気になる。
そして“クローリング”でチェスターがステージを下り、アリーナのスタンディング・エリアへ突入、観客の手をしっかり握ってともにシンガロングした奇跡の出来事。世界のトップ・バンドとして今や手の届かない存在になってはいるが、ファンとひとつになることで生まれるケミストリーのすばらしさを味わいたい気持ちには変わりがないのだろう。ファンと肌と肌を触れ合わせたい、という衝動がチェスターを突き動かしたように思えた。「最高のツアーにしてくれてありがとう」というMCを、そのまま彼らへ返したい気持ちでいっぱいの、最高のパフォーマンスだった。

有限会社グラインドハウス Copyright (C) GrindHouse Ltd. All Rights Reserved.