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【2021.05.10更新】

GrindHouse magazineが商業誌時代、“My Bit Of Taste…”というのを不定期連載してた。アーティストの音楽的内面や、音楽からはかけ離れた趣味などの、普段外からはなかなか見えにくい領域を掘り下げた企画だ。今回はMY CHEMICAL ROMANCEのレイ・トロ(g)とマイキー・ウェイ(b)の記事を再公開する!

2007年5月31日発行GrindHouse magazine Vol.42

translation by Ginger Kunita
photo by Masanori Naruse

メンバー個々の影響を受けた作品群から垣間見る大ヒット作『THE BLACK PARADE』の裏側

昨年(2006年)末に発売された最新作『THE BLACK PARADE』が爆発的なヒットを記録したマイケミことMY CHEMICAL ROMANCE(MCR)。その人気はとどまるところを知らず。前号(Vol.41)に掲載した通り、今年初頭に行われたジャパンツアーは大盛況のうちに終了。また、本誌発売時はちょうど一夜限りのスペシャルライヴとなった武道館公演も満員御礼の大盛況で終えたことだろう。そうそう、彼らのオフィシャルサイト上で兄ジェラルド・ウェイ(vo)が発表してたが、弟のマイキー(b)が、この3月に結婚し、現在はツアーを休んでハネムーンの真っ只中だそう。1月の来日時、そのマイキーとレイ・トロ(g)にインタヴューした。まずはそれぞれの音楽的ルーツと楽器をプレイし始めたきっかけについて。
「兄の影響で音楽を聴くようになり、ギターを弾いてみたいとも思うようになったんだ。LED ZEPPELINやジミ・ヘンドリックスにTHE DOORS、特に兄はメタルの大ファンだったからオジー・オズボーンやMETALLICA、MOTLEY CRUEなども聴かせてもらったね。ギターの弾き方も教えてくれたし、その音楽的ルーツも学ばせてくれたって感じ。兄が聴いて育った音楽をそのままオレも聴いて育ったんだ」(レイ)
「オレは本当に幅広く聴いてたよ。SMASHING PUMPKINSからBLURやOASISにRADIOHEADとMISFITS。そんな感じだね。ジェラルドの影響で14歳頃からギターをプレイしてるけど、ベースを本格的に弾き始めたのはこのバンドに加入してからさ」(マイキー)
(当時)現在マイキーが25歳でレイは29歳。年齢差以上に影響を受けた音楽の時代的な開きが大きく、驚かされた。ただ、こうした音楽的ルーツの違いこそがバンドとしての新たな化学反応を起こすひとつの要因にもなってる。実際、レイも「世代の差もあるし、聴き始めた音楽に大きな違いがあって当然だと思う。でも、それがまたこうしてバンドとして曲作りを行う上でいいスパイスになるんだよ。お互いの感覚を混ぜ合わすようなところがね。当然、マイキーが挙げた音楽もオレは好きだし、互いの感覚も十分理解できるからね」と語ってる。
では、その異なる感覚をどう組み合わせるのか?「曲によってはスゴく簡単だったりするんだよ。“I Don’t Love You”などは感情が前面に出てたぶん、メンバー全員が自然と感覚をつかめたしね。でも、逆に“Welcome To The Black Parade”は完成するまでに実は5年もかかってるんだ。さまざまなアレンジを加え、イメージもコロコロ変わったしね。本当に自分たちが納得できるものを作るためには時間がかかるものさ」とレイが説明してくれた。
ここで、影響を受けた作品をいくつか挙げてもらった。まずレイが名を挙げたのは、PINK FLOYDの正式スタジオ作品としては10作目となる2枚組のコンセプトアルバム『THE WALL』。
「本当の意味でオレが初めて影響を受けた作品だよ。アートワークを含め、すべてに一貫したストーリーがあり、まるでひとつの完璧な映画を観るような感覚に陥った。すべてに衝撃を受けたし、こういう作品を作りたいと思った作品でもあるね」
続いては、METALLICAの3rdアルバム『MASTER OF PUPPETS』。なお、この選出にはマイキーも同意しており、レイのコメントも興味深く聞き入ってた。
「オレのなかではNo.1のメタルアルバムさ。多くの人にとっては代表的なスラッシュメタル作だと思う。でも、オレにとってはメロディのハーモニーの取り方など、大好きなクラシックロックの要素をふんだんに取り入れてる点が魅力的だったんだ。彼らの作品でそう感じるのは、後にも先にもこのアルバムだけだし、オレにとっては完璧な1枚だね」
そして、レイが挙げた作品をもう1枚。WEEZERのデビュー作で、一般的には“ブルーアルバム”と呼ばれる『WEEZER』。実はこの作品もマイキーのお気に入りらしく、レイが名を挙げた際には「それ、オレが言おうと思ってたのに…」と(笑)。
「オレの高校時代を象徴する1枚だね。収録曲のいくつかは、聴くたびにまるで写真を見るかのごとくその時代を思い起こさせるんだ。大好きなアルバムだよ。聴き始めたきっかけはまったく覚えてないけど、友だちと車を運転するたびに何度も聴きながら歌ってたもんさ。当時、大流行してたしね」
4枚目は、マイキーが最後につけ加えたOASISの2ndアルバム『(WHAT’S THE STORY)MORNING GLORY?』。
「90年代のブリティッシュロックを代表する作品だよね。あのタイプの音楽においてはまさに基準となってる作品だし、誰もが目標に掲げる作品でもある。みんながそこに到達しようと努力してるし、同時にいまだに到達できてない。それだけすばらしい作品さ」
それぞれ名を挙げた作品群はバラバラな音楽性を持つし、影響を受けた要素もバラバラ。ただ、同時にそれぞれどこかしらMCRの最新作に通じる要素も感じられる。
「本来、音楽にはさまざまな形があるし、それぞれが独自の魅力を持つと思うんだ。ひとつのジャンルやスタイルだけを聴くなんてバカげてるよ。オレたちだってもともとはみんなバラバラな音楽を聴いてたしね。最新作の目標として、単なるその時代の音楽は作りたくなかったんだ。たとえばTHE BEATLESやPINK FLOYD、CREAMらが作り上げた音楽は決して死なないよね。いまだに多くの人に聴かれてるし、重要視され、人々に影響を与え続けてる。オレたちもそんな30年以上も色褪せずに聴き続けられる音楽を作り上げたかったんだ。子供の子供の、そのまた子供に聴かせられるような音楽ね(笑)。その点が最新作でよりクラシカルな要素を強めるきっかけになったと思うんだ」(レイ)
最後に、マイケミの音楽を表現する上で欠かせない存在こそ、フロントマンのジェラルドではと質問してみた。会話形式でどうぞ。
レイ「そうだね。確かにジェラルドはすばらしいフロントマンだよ。それに、昔から本当にクレイジーなアイディアをたくさん持ってたんだ。いつもオレたちがまったく想像すらできないことを言い出すから、みんな常に半信半疑の状態だったね」
マイキー「オレはいつも納得してなかったんだよ。オレたちからすれば“ウソだろ?!”ってことを突然言い出し、それをすぐその場で実行に移そうとするんだぜ。でもそれがなぜかうまくいくんだ」
レイ「そうそう(笑)。だから今はもう100%ジェラルドを信頼し、みんなで彼の意見を支えるようにしてるんだ。こうしてチームを組んでる以上は信頼関係が大事だからね。それがどんなにクレイジーなアイディアであっても、意見を尊重し、かつ実行する際には全員が100%で臨む必要があるんだよ。今はもうその信頼関係に揺るぎはないのさ」

PINK FLOYD/『THE WALL』(1979年)
METALLICA/『MASTER OF PUPPETS』(1986年)
WEEZER/『WEEZER』(1994年)
OASIS/『(WHAT’S THE STORY)MORNING GLORY?』(1995年)

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