【2021.05.26更新】
過去に一度だけ、ポール・グレイをピンで対面取材したことがある。『VOL.3:(THE SUBLIMINAL VERSES)』(2004年)を完成させ、発売を待たずに“Jagermeister Music Tour”にヘッドラインアクトとして座り(サポートアクトはFEAR FACTORYほか)、キックオフした。US東海岸マサチューセッツ州ウースター公演開演前に、会場に横づけされたツアーバスのなかで行った。先に取材を終えてたミック・トムソン(g)がしばらく横に座って話を聞いてた。5月24日のポールの命日を偲び、再公開する。
text by Hiro Arishima
translation by Keiko Yuyama, Megumi Horigome
誰もが渇望したSLIPKNOT本格的活動再開だ!メンバー自ら認めた“不和説”“解散騒動”などが跡形もなくフッ飛び、ほとんど“”芸術の域にまで達した最新作『VOL.3:(THE SUBLIMINAL VERSES)』を引っ提げて、彼らの快進撃が今、再び始まる…。
ミックとポールは放つ雰囲気が正反対。ミックには“不仲説”をいきなりキッパリ否定されて出鼻をくじかれ、やりにくい部分もあった。だけどやはり“十人十色”、イヤ“九人九色”だ。人当たりがよく、どこかひょうひょうとしてるポールは、ミックとはまた違う見解を述べた。ミックが横から「そうじゃない」と突っ込むほどだったけど、そんなやり取りにミックが言う「前よりいい友だち関係になった」というのを見たような気がした。
ーー新作も完成、久しぶりにツアーにも出れて、今けっこうエキサイティングな気分なのでは?
「非常にエキサイティングでハッピーさ。長い間オフをとったんだ。最悪さ。オレは休むのが嫌いでね。1、2週間か最長でも1ヵ月くらいならいいけど、それ以上は退屈で頭がヘンになりそうさ。だから今は本当にハッピー。ライヴもスゴくいいものになってるし、またツアーに出れて最高にクールさ。今はすべてがスゴくうまくいってる。内部にくすぶってた悪い要因はすべてクリアになったから」
(横にいた)ミック「そんなに悪い状況じゃなかったゼ!」
ポール「オレにとっちゃ悪くなかったけど、不満を抱いてたヤツらもいたわけで、だけどそれは解決し、今はいい状態だよ。最高さ」
ーーあなたは「不満を抱いたヤツらもいた」と言い、ミックは「悪い状況じゃなかった」と言う。いったいどっちなんですか?(苦笑)
「一時期オレたちが混乱し、いろんな話が流出してたのは本当さ。それが原因で、メンバー間の信頼関係に支障をきたしてしまった。誰も信じなくなってた。前作『IOWA』(2001年)のツアーじゃバス2台に分かれて移動してたんだゼ。バンドの半分はこっちのバス、あとの半分はあっちのバスって。こっちの組はあっちの組が嫌いで、あっちのバスはこっちのバスが嫌いでって感じだった(笑)。だけど今はあの頃に比べたら段違いにうまくやってる」
ーー今回のリック(・ルービン)との仕事はどうでした?
「スゴくよかったよ。リックからはオープンマインドであることを学んだ。前作収録曲のほとんどをジョーイ(・ジョーディソン/ds)とオレで書いた。ほかのメンバーのインプットはあまりなかった。だけど新作にはメンバー全員のアイディアが入ってる。全員のアイディアが取り入れられ、トライしてみるまで、なにかを最初からやめたり取り除いたりしなかった。だから全員が自分の意見を出せたし、全員で話し合い、再びファミリーになれたんだと思う。だから曲作りは簡単だった。全員がいいアイディアを持ってたから。新作じゃ全員のアイディアを取り入れることで9人全員を出すことができたんだ」
ーー「ネガティヴな要素がポジティヴに転じた瞬間ものスゴく巨大な力を発揮する」とよく言いますけど、まさにそうだったんですね!
「その通りさ。あの頃と今の状態がどんなに違うかなんてうまく説明できない。新作も音楽はへヴィだし、まさにSLIPKNOTの作品だけど、メンバー全員の姿勢とかそういう部分が今スゴくポジティヴなんだ」
ーー新作のタイトルにはどんな意味が?
「特にないよ。“VOL.3”は3枚目だから。“THE SUBLIMINAL VERSES”に関しては、もしかしたら新作のなかに逆メッセージが入ってるかもしれない。オレにはわからない。だってオレがつけたタイトルじゃないもん(笑)」
ーー新作でもっとも表現したかったことは?
「新作にはいろいろな感情が込められてるし、前作より着実に成長してる。SLIPKNOTのメンバーは1人1人が才能あるミュージシャンだ。そういったことも明確に出てる。前にも増してメロディを表現してるし」
ーーそれは自然に発展していったんですか?
「そう、すべてが自然に生まれた。シド(・ウィルソン/dj)もショーン(・クラハン/per.)もクレイグ(・ジョーンズ/sampler)もアイディアを出し、9つの違うアイディアが集まり、ひとつのいい曲になる。前作はヘヴィでアグレッシヴでダークというひとつの面に片寄ってたけど、新作は全員の意見が入ってるし、レコーディングしたときのオレたち全員の感情が前作のときとは全然異なってたから、おのずと違うアプローチやサウンド面が出てくるよね」
ーー新作収録曲を何曲か解説してください。
「“The Blister Exists”はオレたちがロサンゼルスに集まって初めて書いた曲。ドラムやパーカッションが活躍する。ある日、ジョーイとクリス(・フェーン/per.)がドラムで遊んでたんだけど、それがヒントになった。今回意図したことのひとつに、聴く人が9人のメンバー全員のプレイを聴けるということがある。9人もいると互いの邪魔になりがちさ。それはサウンドプロダクションにもよるけど、新作はクリアで各々のパートが明確に聴こえる。“Vermilion”の風変わりなメロディはオレが書いた。不思議な曲だけど、同時にメロディックでドラマティックでもある。その不思議な感じがいかにもオレたちらしいしクールなんだ。面白いのは、オレが思いついたアイディアをギターでミックが弾き、ジム(・ルート/g)らに聴かせるだろ?するとそこからまた違うものにしたりする。だからもともとオレのアイディアだったとしても、そのままの形じゃ表出しない。このバンドはシド以外全員がギターを弾ける。1stシングル曲“Duality”はキャッチーだけど、ダークでもある。なぜそうなったのかわからないけど(笑)。“Pulse Of The Maggots”はまさにアンセムさ。オレたちのファンに捧げた曲だ。ファンは悪いときもいいときも、オレたちを信じてついてきてくれた。何十万ものファンが常に一緒にいてくれるっていうのはある種クレイジーだけど最高にクールなことでもある。バーテンダーをやってるよりずっといい。オレは昔バーテンダーだった。あと道路のコンクリート塗装もやった。最悪だったね。今はそれに比べたら…比べられないくらいずっといいよ。それもみんなファンのおかげさ」
ーーマスクですけど前は“ブタ”でしたよね。だけど今回は映画『羊たちの沈黙』(1991年)に出てくるハンニバル・レクター(アンソニー・ホプキンスの役)のものに近いですよね?
「“ブタ”のマスクは当時スゴく貧乏だったから1ドル99セント(当時、約240円)で買ったヤツだった。それが初マスクだっただけのこと。今回もコンセプトなんかないよ。呼吸しやすいものにはしたかっただけ。スクリーミング・マッド・ジョージ(特殊メイクアーティスト)が作ったんだけど、呼吸しやすいものをってリクエストした。今も新しいマスクを作ってもらってる。そのほかにもお披露目してないだけで、オレたちはいろんなマスクを持ってるよ」
今号Vol.24には、3rdアルバム『VOL.3:(THE SUBLIMINAL VERSES)』をプロデュースした大物リック・ルービンの取材記事も併載した。
リック・ルービンはamerican recordingsの創立者/総師で、過去に大物を数多く手がけた鬼才プロデューサーとして名高い。USロック業界の”顔役“だ。普段はほとんど取材に応じない彼だけど、今回は奇跡的に話を聞くことができた。彼の見るSLIPKNOTとは?
――SLIPKNOTとの仕事を終えた今の気分は?
「楽しかったよ。手応えも充実感もあったから。今回は9人のメンバーをひとつにまとめることに主に関わった。彼らは結成以来もっとも困難な時期を経て新作制作に臨み、曲作りのために久しぶりに全員が顔を合わせたとき、メンバー間の距離を感じたから、全員が仲直りし、バンドとして再び進めるよう手伝った」
――新作の方向性をどう捉えてますか。コリィ(・テイラー)は「好きか嫌いか意見がハッキリ分かれる作品だ」と語ってますけど。
「新作に限らず、もともと非常にユニークで過激なバンドだから、好き嫌いはあると思う。新作もとても過激で攻撃的な音に仕上がってる。みんなが彼らに求めるサウンドが詰まってる一方で、今までの彼らの作品では体験できなかった進化した新しい音も入ってる。今までとは違うフレイバーが融合してるね」
――メンバーはあなたがバンドに常々、自由を与えてくれると言ってました。ほとんど現場にも顔を見せなかったそうですし。それは相手がSLIPKNOTだからですか?それとも、それがあなたの流儀だからですか?
「彼らだからそうした。アーティストによって取るスタンスは変わるけど、彼らはなにをやりたいのか自らハッキリと把握してると思った。だから時間を見つけてはスタジオにブラブラ遊びにいくわけではなかった(笑)」
――今回あなたがプロデューサーとしてもっとも強く意図したことってなんでしたか?
「彼らの演奏力を最高レベルにまで上げること。今回は今まで以上に多様性に富んだ音楽をプレイする必要があったから。たとえばコリィのヴォーカルも最高に力強くなった」
――彼らは新作で明らかに成長し、音楽的にも次レベルに到達しました。それについてなにかアドバイスしたり、成長や進化を上手く引き出すために特別なことをしましたか?
「確かに音楽的に大きな飛躍が見られるよね。今までにはなかったサウンドの透明感、それから彼らのライヴで特に突出してる彼らならではのパーカッションの音を大きく反映させた。いわゆる“SLIPKNOTらしい音”という既成概念に捕らわれず、とにかく自分たちがアーティストとして素直にやってみたい音楽を作るようアドバイスした。9人全員が心から求める音楽に挑戦すれば、それは“SLIPKNOTらしい音”よりすばらしいものになるから。過去の“荷物”は置いて、前に進むように伝えたよ」
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