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【2021.02.08更新】

文・有島博志

シングル、EP、アルバムを問わずジャケ、つまりアートワークを眺めるのが好きだ。ときにアートワークが気に入り、CDを持ってるのに、さらにアナログレコード盤を買ったりするし、ジャケが気になり音源聴けずにCD、もしくはアナログレコード盤を購入する、いわゆる“ジャケ買い”というのもわりとする。アーティストにとっては音源と同様に、ジャケデザインもひとつのアートだ。
よって、かつてGrindHouse magazineが商業誌だった時代に、アートワーク好きが興じてアーティストにアートワークの話を中心に聞き、その記事を不定期に掲載してた。記事頁のタイトルは“アートワークから見て取れる美意識とアート感覚”。第11回をTHE LOCUSTで、2008年7月31日発行のGrindHouse magazine  Vol.49に掲載した。

text by Hiro Arishima
translation by Miki Erihara & Keisuke Hiratsuka

2008年3月に都合3度目の来日をしたTHE LOCUST。奇天烈カオティック性を前面に押し出しつつエレクトロニクスな要素もふんだんにまぶし、とことんたたみかけ、疾走して止まない、あのパフォーマンスはいつ観ても超絶かつ不気味ですらある(笑)。狂怪虫マスクとコスチュームを身につけ、表情がまったくうかがえないだけに、どこかひんやりとした不気味さを漂わせるのだ。普段はアートギャラリーとしても使われてる、六本木Super Deluxe(閉店)なるいつもとは明らかに違うオシャレな空間でのライヴは、彼らの超絶さをより突出させてた。そして、とにかく演奏がうまい!!まさにバカテクのオンパレードで、すばらしい一夜となった。
THE LOCUSTはカリフォルニア州サンディエゴで1994年に結成された活動歴14年を超すベテランで、個性的なインディーレーベルとして有名なGlobal Standard Laboratories(GSL)を主に足場として作品を出してる。そのGSLに途中から経営参画したAT THE DRIVE-IN、THE MARS VOLTAのオマー・ロドリゲス・ロペスに、「この世のものじゃないよ…あのバンドのことをほかにどう説明したらいい? コメントはこれで…精一杯(笑)」と言わしめただけでもスゴい。オマーもかなり風変わりで奔放な音楽的感性の持ち主だけど、その彼がそう言うんだから、その説得力たるやけっこう重い。
今回取材に応じてくれたのは、バンドを結成したオリジナルメンバーのひとりで、ヴォーカルパートの3分の1を担うジャスティン・ピアソン(b,vo)と、2001年から正式構成員になった元CATTLE DECAPITATIONほかのゲイブ・セルビアン(ds)のふたり。まず、今回の来日の印象をこう語った。
ゲイブ「日本はとてもいいところで、スゴく楽しんでる。見るものすべてがクレイジーだし。オレたちがここにいる限り、見たいものや知りたいものはつきないし、どこにいっても飽きないよ」
ジャスティン「日本は好きだね。なんかほかの惑星にきたみたいな感覚を味わえるし(笑)。狂怪虫マスクを通して見てどう思うかって?すべてがクレイジーだよ、もちろんいい意味でね(笑)」
今回が初対面取材となったのだけど、ジャスティンとゲイブも含め、メンバー全員が一筋縄じゃいかなそうな人たちという印象を得た。ひとクセもふたクセもあり、アクも強そう。あの音楽を聴き、作品のジャケを見て、歌詞を読めば、それは容易に想像がつくわけだけど、実際その通りの人たちだった(笑)。ただ、彼らに関することで、個人的に前から気になってたことのひとつに作品ジャケ、つまりアートワークというものをどう捉え、それぞれの作品のジャケにどういう想いを込めてるのかというのがあった。早速聞いてみたところ、ひとつのパターンっていうか、スタイルをもとに形になってることがわかった。
ゲイブ「作品のコンセプトとかアイディアがハッキリしてくると、その旨を大まかにアーティストに伝え、描いてもらう。そこからアーティストがどういう絵を仕上げてくるかはいつも興味深いんだ。基本的に、オレたちは常にオレたちがやりたいことをアーティストに伝える。そのアーティストだって、オレたちがユニークだと思う人にしかお願いしないから」
ジャスティン「ジャケットは確実に、その作品に封じ込めた音楽の外観だから、とても大事だ」
ゲイブ「アートワークは、ある意味その作品のコンセプトでもある。作品を作るにあたり、曲を書いたり曲順を決めていくなかで、自然とその作品のビジョンが見えてくる。そのビジョンを視覚的に表してくれるものなんだ」
ジャスティン「より高尚に見せてくれる、とでも言うか…」
ゲイブ「なにその答え、ヘンなの(笑)」
下記にあるのが、今日までに発売し(2008年夏の時点)、今もなお主に輸入盤などで入手可能な作品群のジャケだ。空想の怪物みたいなものが描かれてるジャケが、3rdリリースかつGSLからの初発売作品の『THE LOCUST EP』(1997年)。3インチCDと、7インチアナログ盤という、2形態で出た11曲入りだ。続いて、イナゴが人々に襲いかかってる、ちょっとモンスター映画の劇場公開告知ポスターのデザインを思わせるのが、GSL発売の初フルアルバム『THE LOCUST(1998年)だ。通常サイズのジュエルケースに納められてはいるものの、CDディスク自体は3インチだ。幼虫の卵が蠢いてるような気色の悪いジャケットが、2枚目のEP『FLIGHT OF THE WOUNDED LOCUST』(2001年)。一度は日本盤化されたけど絶版のため、購入可能は輸入盤のみ。おっさんが自ら自分の鼻をもぎ取ってるという、なんとも意味不明なジャケが、ジャスティン主宰の自主レーベル、THREE. ONE. G→から発売の3曲入りEP『FOLLOW THE FLOCK, STEP IN SHIT』(2003年)。3曲入りでトータルタイム3分11秒という短尺さで、CDディスク四方5.4㎝の正方形ときた!!そしてEpitaph Records傘下のANTi-(アンタイ)より発売した2ndフルアルバム『PLAGUE SOUNDSCAPES』(2003年)。CDディスクの仕様的にはとてもまともながら、ジャケは漫画ちっくで、描かれてる人間全員の眼が白目なのがおっかない。そしてANTI-にいったものの、ちょっと浮気な感じで、かのマイク・パットン(FAITH NO MORE、TOMAHAWK、FANTOMASほか)主宰のIpecac Recordingsより発売した2曲入りEP『SAFETY SECOND, BODY LAST』(2005年)が続く。これまたワケわかんない物体?人間?が描かれてる。ただ、彼らのお気に入りのようで、このデザインがプリントされたブラウンTシャツが、来日公演時の物販ブースで売られてた(思わず購入してしまったけど:笑)。そして、3rdフルアルバム『NEW ERECTIONS』(2007年)だ。これまでで最長尺曲の、4分31秒ある“Book Of Bot”が収録されてることでも話題になった作品だ。再びANTi-に戻っての発売なのだけど、デジパック盤という、仕様が極めて普通なのには驚く。だけど普通なのはそれだけで(笑)。ジャケには地面から上に向かって、にょきにょき伸びる薄気味悪い物体がいくつも描かれてる。2ndと3rdは日本盤で入手できる(当時)。それぞれのアートワークが意図することを聞いてみたのだけど…。
ジャスティン「それはみんなが自分で考えてくれ!」
ゲイブ「秘密さ。人それぞれ違うものの捉え方をするだろ?だからオレたちはこういうことだと決めつけたくないんだ」
ジャスティン「そうさ!みんなそれぞれ感じたままに解釈してくれればいいんだ」
…と、とりつく島もないような感じだったので、「そう言われてしまうと、この企画自体成立しないんだよなあ…」とボソッと言ったところ(笑)、ジャスティンがこう答えてくれた。
「わかった、わかった!じゃあヒントを出そう。昔の作品から新作(3rd)までのジャケットを並べてみると、ひとつの物語ができる。ただね、それを説明するのは不可能だ。それぞれにたくさんの意味があり、オレたちの人生の局面が出てるから。それぞれに政治や芸術、小さな社会や文化が絡んでる。一度の取材、ただひとつの質問で、そのすべてを説明するのは無理なんだ。もっともっと大きなものだから。アートワークにはオレたちの人生がある。オレたちが自分たちの眼で見た世界の様子もね。その世界はfucked up、つまり終わってるっていうことさ。どう、これで納得してくれたかい?」
この言葉に、「ええ、少しは納得しました」と答えたのだけど、このとき彼らの人間としての、またアーティストとしての優しさ、真摯さを強く感じた。現在、彼らは次作の曲作り中だ(このマテリアルは結局発表されずじまい)。

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