かつてチェスター・ベニントンが語ったこと…

Text & photos by Hiro Arishima

チェスター・ベニントンがどれだけSTONE TEMPLE PILOTSのことが大好きで、どれほど音楽的影響を受けてるかは、LINKIN PARKとしてデビューした直後から頻繁に口にしてた。当時はまさかチェスターが後にストテンの一員となり、STONE TEMPLE PILOTS with Chester Bennington名義で5曲入りEP『HIGH RISE』を出し、LOUD PARK 13参戦ほかで来日するなんて思いも寄らなかった。だけどそれは現実のものとなった。LOUD PARKで初日のトリを務め、その翌々日に大阪で単独公演を行った。これまでの経験上、フェスのバックヤードは裏方さんたちでゴッタ返す、というのが常。よってLOUD PARK現場での取材、撮影にはどうしても限りがあるとの判断で当日はグループ及びメンバー個人の写真撮影と、ディーン・ディレオ(g)、ロバート・ディレオ(b)、エリック・クレッツ(ds)の“ストテン組”の対面取材を実施、翌々日にバンドを追うように大阪に移動、開演前に会場なんばHatchのバックヤードのホスピタリティルームでチェスターと向き合った。結果論なのだけど、取材場所を大阪でお願いしたのは大正解で、とても静かな空間でジャスト30分話を聞くことができた..。 以前このインタヴュー記事は公開してる。だけどチェスターの二周忌ということで全文、ほぼ原文のままアーカイブ公開する。

――今回はLOUD PARK出演をメインとした来日だね。しかもLINKIN PARK(以下リンキン)としてじゃなくSTONE TENPLE PILOTS (以下ストテン)の一員として。以前DEAD BY SUNRISE (以下DBS)で来日したとき、ライヴパフォーマンスはもちろん、バンドやその周辺の空気、雰囲気がリンキンとはだいぶ異なっててちょいと驚いたけど、今回はどう? ライヴ中もステージに上がってないときもとても嬉しそうで楽しんでるように映ったけど…。
「うん、とても楽しんでるよ。すばらしい経験さ。特に日本ではストテンのライヴを観たことがない人が大半だろうから。スゴく熱心に見入ってくれてたよ。みんなの“S・T・P!S・T・P!”の大合唱を聞いて、オレたちはうまくやってるんだって実感したからね」

――ストテンとは2001年にFamily Values Tourで一緒にやってるじゃない。その前からチェスターがストテンの大ファンで多大な音楽的影響を受けてることはしょっちゅう言ってたけど、今こうしてストテンの一員になり、作品を出し、本格的なツアーに出てるなんて当時は想像できなかったでしょう?
「想像なんてしたこともなかったよ(笑)。確かにワイフには9年か10年近く前、ストテンの内部でいろいろ問題が起こってた頃に“ストテンのヤツらがいつかオレに連絡してきても驚かない”なんて話したことはあったけどさ(笑)。で、その10年後に実際連絡があった。だけどリンキン以外になにかやろうなんて本気で考えたことは一度もなかった。DBSのときですら自然発生的なもので、リンキンのやってることに合わない音楽を発表するためにやったから。だけどストテンから連絡をもらい、“一緒に前に進んでほしい”と言われたのは嬉しいサプライズだった。今、加入ししばらく経ち、一緒に音楽を作ったりツアーをしたりしてみて思うのは、これから長い間これをやっていくんだろうなっていうこと。これからもっと曲を作りたくさんライヴをやり…できるだけリンキンと同じような関り合いをしていきたいと思ってるんだ」

――言うまでもなくリンキンもストテンもメタルバンドじゃないよね。だけど一昨日出たLOUD PARKは100%メタルなフェス。いつもとまったく違う観客の前で演奏することを意識してた?
「まあ、そういう状態、環境には慣れてるから。オレもリンキンをメタルバンドだとは思ってないけど、メタルツアーには何度も出てるし。ストテンもリンキンもメタルのライヴに居場所があるというわけじゃないけど、どんなステージを与えられてもうまくやれる自信はある。どこにいっても最高のライヴを見せるだけだから。その日ほかがどんなタイプの音楽をやってても気にはしない。どのライヴもアプローチの仕方は変わらないから」

――これまでにたくさんリンキンのライヴを観てきたよ。そして、DBSも一昨日のストテンも。それぞれステージ上でのアクションとかヴォーカルアプローチを微妙に変えてる、と思えたんだけど…。
「リンキンとDBS、ストテンとは音楽性が違うからね。リンキンのときとDBSのときとストテンのときと、自然に身体の動きが異なってくるんだ。自分じゃあまり考えなくて、音楽の赴くままに身体が反応してるという感じかな。リンキンのヤツらはいつもオレを見て笑ってるよ。演奏してるときとか、ただジャムってるときとか、オレがいつも変な踊りをしてるらしいんだ(笑)。だけどストテンのときはこう動こうとか、リンキンのときはこうしようとか、あまり考えない。ただステージに出ていき、歌いながら自然に身体を動かしてるだけでさ」

――ステージに上がる前のドレッシングルーム内の雰囲気などもリンキンと、DBS、ストテンとでは全然違うね。リンキンが超ビッグバンドということもあるんだろうけどけっこう空気がピリピリしてたけど、DBSんときはまったく違い、ステージが始まる寸前までメンバー同士でふざけ合ってたし、ストテンのときもみな一様にハッピーそうだったしで。
「それぞれのメンバーがみな違うからね。リンキンのときがああなるのは、あれがオレたちのメンタリティだから。あれが一番うまくいく。誰にも邪魔されたくないやヤツもいるし、バックステージで気を散らされたくないヤツもいる。だけどDBSの場合は(妙に明るい口調で言う)“やぁ、オレたちのライヴにようこそ。オレたち細かいことは気にしないから”って感じだから(笑)。まぁ、各バンドメンバーがなにを望んでるか、だよね。リンキンじゃオレたちのやり方というものが確立されてて、全員の意向が取り入れられてる。ほかのバンドも同じさ。ストテンは開演前は極めてメロウだよ。ただ、アイツらは何年もリラックスしたライヴをやれてなかったと思うけど(スコット・ウェイランドの件もあって)。それをオレが知ってるのは、そう聞かされてるからな。ロバートが“ふぅ”とため息をついてたりする。で、“大丈夫か?”と訊くと“大丈夫。なんの心配もしてない”と言う。だけど今はハッピーでリラックスした、気楽な雰囲気があると思うな。前は心配してたことをもう心配しなくてよくなったからね。ちゃんとライヴをやることができる、オレがちゃんと歌うってわかってるから。ファンもプロモーターもそこにいて、オレたちがやることをなにかワクワクしながら待っててくれるってわかってるからね。だから極めてメロウさ。違う仕事環境にいるとこっちのアティテュードも一緒に働く人たちに合わせて変わるね」

――それぞれのその雰囲気の違いを楽しんでたりする?
「どれも似てたりするんだけどね。インタラクションなどは特に大きな違いがあるわけじゃない。ただ、DBSの場合はライヴ後にゲストの誰が楽屋に戻ってきたかとか気にならなかったけど。オレは全体でひとつの仕事としてみてるよ」

――先に言ったFamily Values Tourだけどストテンと一緒にやったじゃない。ニューヨーク州オーバニー公演を観てるのね。で、ストテンのセットに飛び入り参加したよね。そのときの表情がとても嬉しそうで、「ホントにストテンが好きなんだな」って思ったよ。
「あんときはスコットに引っ張られるままにステージに出ていっただけなんだけどね(爆笑)。計画すらされてなかったことなんだよ。“もしよかったらライヴを観においでよ”とは言われてたから観にいったんだ。そうしたらあんときスコットがオレに向かって歩いてきて、手にはマイクを持ってた。そのマイクをオレに突き出し、ステージに引っ張り出したんだ。その瞬間どうしたらいいかわからなかったよ(笑)。“しまった、歌詞憶えてないかもしれないゾ”なんて感じだった。だけど、あれから後は毎晩引っ張り出されてたよ(笑)」

――あれからずいぶん月日が流れたけど、自分にとっては今なおいい思い出だよ。ストテンへのチェスター加入のアプローチはやはり向こうから? (当時)マネージメントも一緒だったから話もスムーズだったんじゃない?
「ストテンは前に進む決断をし、スコットを解雇した。そしてオレのところに連絡がきたからイエスと言ったんだ。とても早い決断だったよ。ストテンがスコットを解雇してからそんなに時間が経っていない頃だった。音楽を続けていきたい、ツアーをやってバンドを続けていきたいけど加入して歌う気はないか、ストテンとしてやっていく気はないかって訊かれたんだ。“もちろん!きっと大いに楽しめるだろう”って答えたさ。もちろんオレ自身が考えたことじゃなかったし、オレのレーダーにも引っかからなかったことだったけど。今こうしてるなんて、とてもトリッキーだなって思うよ」

――電話で誘いを受けたときの瞬間的な想いって今も憶えてる?
「うん。最初はエキサイトしたけど、その後“ちょっと待てよ”という気分にもなったんだ。ストレスフルな立場になるということでもあるからね。多くの疑念を呼び起こすことは間違いないだろうし、楽しみにしてくれる人もいるだろうけど、最悪な話だと思って嫌悪し、それをみんなに言いまわる人たちもいるだろうから。一番の懸念は、リンキンのみんながクールだって思ってくれるかどうかということだったけど、みんな本当にサポートしてくれてるよ」

――当然、リンキンのほかのメンバーにも事前に相談したんだよね?
「うん、もちろんさ。みんなに祝福してもらいたかったからね。で、みんなが頑張れよ!と言ってくれたんだよ」

――そんなに簡単だったの?
「ああ。じゃなきゃ今オレはストテンをやってないし、ここにもいないさ(笑)。もしノーと言われてもやるなら訊く意味がないだろ?(笑) DBSんときも同じような感じだった。“こういうことをこういうヤツらとやり、自分の作品を作りたい”と言ったときも、みんな応援してくれたんだ。リンキンのメンバーは互いに信頼とリスペクトの気持ちを持ってる。だから、その信頼とリスペクトを光栄と感じてる限りは大丈夫だと思う」

――メンバーの誰からも反論、異論は出なかったと?
「まぁ、メンバーの誰もが大なり小なりの懸念はあったと思うけどね。“みんなをハッピーにしたいという気持ちを利用されないように”という感じのことは言われたよ。もちろん成功させたいんだろうから、時間をちゃんと考えるんだぞ、とも。リンキンの外でそんなに多くの時間を割いて大丈夫か?って。家族と過ごす、私生活の時間を削ることになるわけだからさ。そういう健全な懸念はしてくれたけど、オレがやるかやらないかは当然オレ次第だと。“オマエには自分のことをちゃんと大切にしてほしい”とも言われたね。オレが他人に利用されることなくハッピーになるのを望んでくれてるんだ。とても嬉しい反応だった。きっと楽しいものになると言われたよ」

――マイク・シノダもちょくちょくほかのプロジェクトをやるよね。FORT MINORしかり、映画『The Raid-Redemption-』(2011年)の音楽しかり。マイクもそういうときはほかのメンバーに事前に相談してたの?
「やることなすことすべて相談し合うわけでもないんだ。お互いリスペクトがあるから。あのときマイクが自分の時間を使ってFORT MINORをやることはほかのメンバーみなわかってたから楽しんでくれ!という感じだった。だから当然問題にはならない。“クールじゃないか。いいじゃないか。だけど来週のミーティングには忘れずにこいよ」みたいな感じさ(笑)」

――メンバーの誰かがバンド外の音楽活動をやると、それがきっかけでバンド内の関係がギクシャクする、なんていう話をたまに聞くけど、そういうのはリンキンに限ってはない、と?
「一切ないね。リンキンの邪魔になり、物事を悪化させるようなことは排除するだろうから。ハッキリ言うけど、もしこのストテンの活動がリンキンにとって問題になるようなことがあったらオレは止めるよ、やらないよ。ストテンが前進するにあたって、リンキンのことは絶対に変えないってみんなに宣言したんだ。計画は変えない。ストテンのツアーのためにリンキンがツアーをしないなんてことはしない。ストテンのスタジオ作業のためにリンキンがスタジオ活動をしないということもない。そんなことはあり得ないって。ストテンのみんなも、活動する時間が限られてることは理解してくれてる。それに、家族との時間も必要だからね。いつでもというわけにはいかない。だから時間を最大限に活用するようにしてる。 正直、ワイフの存在がバンドにとって問題になったらダメさ。家族がバンドにとって問題になったらホントにダメ。そういう状態は直さないといけない。オレが今やってることはものスゴく大切なことなんだよ。いろんな人の生活がかかってるから。バンドのなかでもお互い頼り合ってるし、その信頼を邪魔するようなことはしないつもりだ。どのバンドのどのメンバーも、それは守ってる。だから誰とでもなんでもやるというわけじゃない。いろんな人が声をかけてくれるけど、選択的でなければならない。自分の人生に迎え入れるものだからね。必ずうまくいくようにしないと」

――ところで、どうして今は口ひげを生やしてるの?(笑)
「じゃ訊くけどさ、そっちはなぜ髪伸ばしてるの?今日は帽子被ってるし。なんか変だよ(笑)。特に深い理由はなくてね、なんか口ひげを伸ばしたくなったってだけのことさ(笑)」

――ここんところずっと『HIGH RISE』を聴いてるんだ。見事なくらいストテンの一部になってるし、さぼどリンキンぽい歌い方もしてないし。歌録りのときストテンの一員として、というような気構えみたいなのがあったのかな?
「今までどおりに歌ったよ。ストテンのライヴにいって彼らを観てる観客のような気分でね。ワイフと一緒にストテンのライヴにいくと、オレが全曲一緒に歌ってるからクレイジーになりそうだって言われる(笑)。オレはバンドのみんながその曲にふさわしいと思って作ったやり方で歌いたいんだ。曲の内容やヴァイブをオレに合わせさせるつもりはないよ。その曲にふさわしい形で歌いたい。ストテンのライヴを観にくる人たちが望んでる形を見せたいんだ。新曲は自分らしさを少しは入れられたと思ってるけどね。“オレたちの曲”だから。古い曲はバンドに合わせて歌ってる観客の気分で、あるべき形で歌ってる。新曲じゃあクリエイティヴな面で自由にやり、自分らしさを入れてるね」

――このEPで一番好きな曲は?
「うーん…好きな曲を選ぶのは難しいね。フルアルバムだったら3~4曲同じヴァイブの曲が続くこともあるからそのなかで一番好きなものを選べばいいけど、今回はどの曲もまったく違うからね。初めて今のメンバーで書いてレコーディングした曲たちだから、どれもとても特別な位置付けなんだ」

――ボクはもちろん”Out Of Time”、この曲はとても印象深い。あと”Same On The Inside”。ハッピーエンディングなところが好き。歌詞もいいし。
「ありがとう」

――“Cry Cry”はなかなか楽しい曲だし。
「あの曲からスタイルが従来のものから分かれたと思うね。オレが曲の大半を書いたのが大きかったと思う。リフはオレが書いたから。もちろん、残りはディーンやロバートがいろいろ足したけど。オレが音楽的にストテンの一員になれたと思える曲だよ。ほかの曲はディーンとロバートがメインで書いた曲だから。うん、確かにあれは楽しい曲だね」

――この来日後の予定は?
「11月と12月にはストテンとしてのライヴがあって、それが終わったらリンキンのメンバーと一緒にスタジオに入るんだ。曲作りのためにね。11月から来年(2014年)1月にかけてはいろいろやることがあるけど、バンドマンじゃなくて“ただの人”になる時間も作りたいんだ。音楽のことは忘れて家族と過ごす時間を楽しみにしてる。ワイフと子供たち以外のことは考えない時間にしたいよ(笑)」

――人間、リラックスすること大事だから(笑)。
「なにしろいろんなことが起こってるからさ。たくさん仕事しないといけない。ときには1日でストテンとリンキンを掛け持ちすることもある。家に帰えれば父親をやらないといけないし。だからちゃんとチェスターでいるだけの時間をとるようにしないといけないんだよ」

――最後にリンキンの新作はいつ頃出すのかな?
「まだわからないけど、来年(2014年)には出したいと思ってるよ。来年のいつになるかはわからないけど、いい素材ができてきてるよ。少し前倒しに作業やってるんだ。“こいつらどうしたんだ?”という感じの、スゴい内容の作品になると思うよ。それとは別に、ストテンとしての新曲にも取り組んでるんだ」

――ストテンは90年代の大好きなバンドのひとつでね。一昨日メンバー3人とは13年ぶりに再会することができてとても嬉しかったよ。そのバンドにまさかアナタが加入するとはねえ(笑)。
「誰も思ってなかったよ(笑)」

このときのチェスターはとてもリラックスしてて、心底ストテンとの活動を楽しんでるようだった。ただ、ご存知のとおり、この2年後の2015年11月にチェスターはストテンを脱退する。この大阪での取材が自分にとってのチェスターひとりでの対面取材となった。Chester, Rest In Peace….

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