新作『MANIA』発売直後の再来日の東京公演は初日本武道館だった!

取材・文/写真/有島博志
通訳/松田京子

新作『MANIA』発売直後に実現した再来日公演は大阪2公演を終えてから東京に移動、FALL OUT BOYにとってキャリア初の日本武道館のステージに立った。昨年4月26日のことで、開演前にパトリック・スタンプ(vo,g)とピート・ウェンツ(b,vo)に20分強という限られた時間で話を聞いた。8月再来日目前ということでアーカイブ公開した。ほぼ全文、原文のまま掲載した。

――大阪2公演(4月24日、25日 @ Zepp Osaka Bayside)どうだった?
ピート・ウェンツ「最高だったよ」
パトリック・スタンプ「うん」
ピート「グレイトだったよ、どのライヴも」

――ところでさ、ピート、なんで来日するたびにヘアスタイルや髪の色が違うの?(笑)
ピート「(大きな声で、かつ高らかに)えーーーっ!オレは落ち着きのない人間だから、どんなところでもジッとしてられないのさ。髪の毛だけじゃなく、オレの身体すべてにそれが染み込んでるんだ(笑)」

――パトリックも会うたびにわりとヘアスタイル違くない?
パトリック「ホントに?年をとって大胆さがどんどん減っていくような気がしてるんだけど(笑)」

――だけど2人とも絶対鏡見ながら自分の容姿に見とれてるタイプじゃないよね?
(口々に)「違うよ~(笑)」

――ナルシストはその瞬間瞬間が大変だからさ(笑)。で、今晩いよいよ武道館のステージに立つね。これまでに何度も来日し、それなりに大バコでもやってきたけど武道館は初めてで。武道館ってことでやっぱ特別な想いってある?
ピート「伝説の会場だよね。子供の頃、CHEAP TRICKの『at 武道館』(1978年)を聴いて育ったし。武道館がなにかはわからなくても、頭んなかでいろいろ想像してたよ。遠くにあって神秘的で、自分がいけるようなところじゃないって。スゴくクレイジーな話だったよ。最近プロレスラーのアンドレ・ザ・ジャイアントのドキュメンタリーを観たんだけど、彼も日本ではここで試合をしたんだ。ジャイアント馬場とかそういう超有名なレスラーとやったのがここなんだから!(笑)」

――実はCHEAP TRICK、ホントなら昨晩ここでライヴをやってたんだよ。リック・ニールセン(g)が体調不良で10月に延期になってしまったけど…。
ピート「ホントに?知らなかったよ」

――新作を発売する前に、パトリックがMAN WITH A MISSION(MWAM)のシングル『Dead End in TOKYO』でコラボしてるじゃない。表題曲をプロデュースし、少し歌ってる。やってみてどうだった?
パトリック「うん、ちょっと歌ったよ、バックで(笑)。楽しかったよ、普段とはちょっと違う感じだったから。ほかのバンドのプロデュースはしばらくやってなかったから、そういうモードに再び没頭するのは面白かったし、エキサイティングでもあった。というのも…ほかの人と仕事するときはいつも思うんだけど…2日間のセッションだったんだ。作業初日はなにも起こらなかったというか、しっくりくるものがなかった。“ボクはヒドいプロデューサーだな、自分がなにをやってるのかわかってない”って頭を抱えてたよ(苦笑)。だけど2日目はまるで曲が自ら書かれていったかのようにすべてがスムーズに進んでね。で、パーフェクトなものができて、みんなハッピーになれたんだよね。スゴく不思議な感じだったけど、面白かったよ。実はFALL OUT BOYでもそんな感じなんだ。たとえば2日間のセッションなら初日は間違いなくそんな感じ。それにリハーサルんときも同じ感じだね。TV番組用のリハーサルにいったりすると、TV局のスタッフたちが頭を抱えて“困ったもんだ、これはヒドい出来になるぞ”なんて思ってる。だけど本番は意外と大丈夫なんだよ(笑)」

――これまでにもほかのアーティストたちに曲を提供してきたし、プロデュースもしてきたじゃない。MWAMのとき、それまでとの違いってなにか感じた?
パトリック「とてもエキサイティングだったね。メンバー全員十分英語は話せたけど、母国語じゃない別の言語で作業を進めていくのっていうのは本来難しいことだから。だからとても魅力的な作業だった。通訳を介してやらなければならない作業も確かにあったよ。彼らには主に英語の歌詞の手直しを頼まれたんだ。スゴく興味深いチャレンジだったね。音楽面に関してはあらかじめみんなアイデアがあったから、どんなものを作りたいかというのはわりと早くまとまったけど、歌詞にはものスゴく時間をかけた。ボクにとって言語はとても魅力的なものでさ。ひとつのことを考えるときに特定の単語の連なりがあるけど、それを別の言語に置き換えるとあまり同じニュアンスには聴こえない。だからしっくりくるというか、もとの言語と同じように感じられる言い回しを見出すという作業が楽しかったんだ。エキサイティングだったし、もっと日本語を知りたいと思ったくらいさ」

――『MANIA』制作中、パトリックがほかのバンドの仕事をするっていうのは、ピートとしてはどう受け止めたのかな? 「自分たちのバンドのことに集中してほしいんだけど」みたいなのってなかったの?(笑)
ピート「(笑)イヤ、そういうのはまったくなかったよ。みんなそれぞれ責任を持って自分たちのことをやってるから。それがなんであろうとね。みんな自由にやってて、FOBのときはFOBのことをちゃんとやる。みんながほかになにをやってるのかオレは具体的には知らないしね(笑)」

――新作発売からまだ3ヵ月しか経ってないから、振り返ってみて、なんていうのは愚問だけど、どう?実際のところ。新作は、やはり前作『AMERICAN BEAUTY/AMERICAN PSYCHO』(2015年)とは方向性とかアプローチとか違うし、向けてるベクトルも異なる。それまでにやったことのないような新しいタイプの曲もあるし。それでも、どこをどう切ってもFOBの作品になってるっていうのがスゴいね。
ピート「そうだね。新作制作は断片的なプロセスだったと思うんだ。スタートしたかと思えばストップしたり、スタートしたかと思えばリブートしたりして。オレたちの場合、パトリックの声があるおかげで、なにをやってもFOBらしさが出るという利点がある(笑)。だけど…確かに興味深いプロセスだったよ。バンド内部だけじゃなく一般的にも、みんなの音楽の聴き方がクレイジーになってきてる気がするんだ。たとえばうちの9歳の息子は曲単位で聴く。1枚の作品としてじゃなくてね。アメリカじゃストリーミングが優勢だから、その消費のされ方を見てると興味深いよ」
パトリック「ボクたちにとっての楽しいチャレンジは、思うに狭間にいるってことじゃないかな。今のバンドのなかにはストリーミングを嫌い見下してるヤツらもいれば、反対にストリーミングのことしか考えてなくて作品1枚という概念は気にしてないヤツらもいる。ボクたちはその両方にいる気がする。どちらにもアートは存在するわけだから。プレイリストに載りそうで、人の心を掴んでなんらかの意味を持ちつつ、もっと大きな枠組みの一部としてもフローする曲を作るっていうのはエキサイティングなチャレンジだと思うんだ」

――前作の後に同作のヒップホップリミックス作『MAKE AMERICA PSYCHO AGAIN』(2015年)を出してるよね。その作品を作ったことが、新作になにか影響を及ぼしてる?
ピート「サウンドプロダクション的にはコンテンポラリーヒップホップはプロダクションの最先端だし、興味深い作業を知ることができたとは思う。だけどオレたちは常にいろんなものに影響を受けてるから。ジェイ・Zがかつて『INFINITY ON HIGH』(2007年)に参加してくれたけど、うちのドラマー、アンディー(・ハーレー)は基本的にメタルヘッドだし…というわけでいろいろしっちゃかめっちゃかだけど(笑)、今の人たちの音楽の聴き方はどれだけ影響が多彩でも気にしないというか、“あっこれ好き!”と思ったらジャンルはあまり関係ないんだよね」
パトリック「そういう方が魅力的だと思うね。前にも話したことがあると思うけど、FOBがFOBたる所以はオレたちの音楽的バックグラウンドがそれぞれ違うということ。この新作じゃヨハン・ヨハンソン(アイスランド出身の作曲家。2018年他界)の映画『SICARIO』(2015年)のスコアとか、ナイジェリアのレゲエなどを聴かせてくれた。オレたちが聴いてるとは到底思われないようなタイプの音楽をね。だけどそういうのがインスピレーションになるんだ。それが、オレたちがオレたちらしくいられる唯一の方法のような気がする。みんながオレたちから想像できるもの以外のものに目を向けることさ」

――新作にはアッパーな曲が1曲もないし、かつてのハードコアパンクだった頃のエッジも完全に消えたね。そういうのってある部分自然的な変化なのかな? それともある意味どこか意図的だと?
ピート「意図的で自然な変化だと思うね(笑)」
(一同爆笑)
ピート「わかるだろ?(笑)…大きなアイデアを考え実行するとき、それが完璧にできるときもあれば、数曲その大きなアイデアからズレてるものができるときもある。それが新作なんだ。オレたちは自分たちに正直でいること以外は何事にも縛られないようにしてる。どの作品にもアッパーな曲を入れないといけないとか、必ずスクリームしなきゃいけないとかさ。作品制作中は、“今自分はこの曲を作ってるんだ”っていう実感がほしいんだ。そのときそのときの自分に正直なものを作りたい。それから次に移る。いいものを残し、誰も気に留めないようなものは残さない。前進し続けるんだ」
パトリック「それから大切なのは、確かキミが以前指摘したことだと思うけど、作品制作中は“可能な限りできることはやる”っていうことね。それがいいふうに転んでも悪いふうに転んでも、それがアートを作るべき方法なんだ。ボクたちの作品を聴いてもらえばわかると思うんだ、同じことをするようなバンドはほかに思いつかないってね」

――新作のジャケを初めて見たとき、ふと思ったんだけど、タイトルの『MANIA』の“A”と“N”と“I”と“A”の間にそれぞれスペースがあるじゃない。これにはなにか意味があるの?
ピート「間違えたデザイナーはクビにしたよ(笑)。ものスゴく気分が鬱なときって、一晩中起きてて眠れなくて考えることがやめられなくて…みたいな感じのときの手書きの文字ってどんなだろうって考えたことが始まりだったんだ。たぶんああいう感じになるんだろうと思ってさ」

――今回ジャケをはじめ、アーティスト写真もパープルが基調だけど…。
ピート「これまでの作品のジャケは青と赤が交互に出てきたような気がするんだ。“じゃあ次はパープルでやってみようか”なんて話を前からしてたんだよね。パトリックが“Young And Menace」を弾いたとき、“WOW!これは間違いなくパープルがぴったりだ!”と思ったね(笑)」
パトリック「ボクは軽度の共感覚(=synesthesia:文字や音に色を感じること)の持ち主でね。新作制作の話が持ち上がったとき不思議な話なんだけど、ボクはパープルを感じてね。それで決められたっていうのが気に入ってる。ピートが持ってくる作品タイトルに、色を感じるときっていうのは大抵それがふさわしいことなんだ。ピートが真夜中に電話してきて、“あのさ、これにすべきだと思うんだ”とタイトル『MANIA』を言ってきた。最初は「イヤそれは…」なんて思ったけど(笑)、だけと本当にタイトルにすべきものっていうのは勘なんだよね」

――物販でTシャツが売られてるでしょ。うち1枚に日本の犬が描かれてるけど…。
ピート「世界中をツアーで回ってるとさ、各国それぞれ独自のものがほしいと思うんだよね。日本のライヴにいかないと手に入らないスペシャルなもの。あのデザインを提案され、クールだなと思ったし、みんな気に入ってくれると思って実施したんだ」

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