アーティストであり、FOBの一員であり、夫、父親でもある自身についてピートが語った!

取材・文/有島博志
写真・有島博志

時期的には通算6枚目『AMERICAN BEAUTY/AMERICAN PSYCHO』(2015年)のヒップホップリミックス作『MAKE AMERICA PSYCHO AGAIN』(2015年)発売と、それに続く新作『MANIA』(2018年)発売の間だ、FALL OUT BOYは2017年3月に再来日してる。東京公演初日の3月22日に会場の新木場STUDIO COASTで、開演前にピート・ウェンツ(b,vo)に話を聞いた。ほぼ全文再掲載だ。

 ――来日していきなりライヴなわけだけど、どう?久々の日本は?
「上々だよ。今回は(アメリカ南部)アトランタからヨーロッパ経由できたんだ。遠回りだよな。おかげで時差ボケなしさ。なんかうまく作用してるような気がするよ(笑)。

――前回来日したとき(2015年のPUNKSPRING参戦ほか)、髪の色はピンクだったじゃない。
「うん、ピンクだったね。桜に合わせてさ。今年は桜が咲くには少し早すぎる時期だろうから髪がまだ茶色なんだ(笑)」

――今回ピートは「髪の毛何色だろ?」ってうちのスタッフと話してたんだよ(笑)。
「そうなんだ。で、賭けには勝てたの?誰が勝ったの?(笑)」

――賭けなんてしてないから(笑)。だけどオレは「地の色でくるよ」って言ったよ。
「キミの勝ちだ(笑)」

――ピンク色で2回連続は絶対ないって言ってさ(笑)。
「その通りだね。同じ色で2回は来ないな(笑)。それじゃ退屈じゃん」

――(笑)。『MAKE AMERICA PSYCHO AGAIN』発売タイミングで、パトリック・スタンプ(vo,g)に電話取材したのね。そのときパトリックは「長らく作品制作をするたびに同じ取り組みになってたから『MAKE AMERICA PSYCHO AGAIN』のような作品を作ることで、ほかの人の意見を聞いたり、ほかの人のヴォーカルを入れたりして、それまでとは違うアプローチやヴァイブを取り入れたかった」って言ってたけど、ピートはどうだったのかな?
「そうだね。それからもうひとつ『SAVE ROCK AND ROLL』(2013年)発売後、『PAX AM DAYS』(2013年)っていう8曲入りのパンクロックEPをライアン・アダムスと出したんだ。あの作品もオレたちの受けた影響の一面が出たけど、オレたちはいろんなところから影響を受けてる。だから『MAKE AMERICA PSYCHO AGAIN』にはオレたちが受けたヒップホップからの影響が表れてる。あの作品に参加してくれたヒップホップアーティストたちは、少なくともオレたちのファンには新進気鋭の連中だったから、彼らを知る機会を提供することができたのはよかったよ。たとえばMigosは当時まだビッグじゃなかったし、初めて聴いた人も多かったんだ。そういう連中にプラットフォームを提供することができたのはよかった。若手アーティストたちにとって大切なことだからね」

――聞くところによると、もう次作(『MANIA』のこと)の制作を始めてるってことだけど、『MAKE AMERICA PSYCHO AGAIN』をやったことでリフレッシュでき、なにか新しい感覚で次作の制作とか曲作りとかに取り組めてるってある?
「そうだね…いつもなにかしらに取り組んでるっていう感覚もあれば、なにもやってないような感覚もあるけど、オレ自身は映画とかヴィジュアル的なものに刺激を受けて取り組むことが多いんだ。『MAKE AMERICA PSYCHO AGAIN』が面白かったのは、オレたちの音楽を他人の観点から見ることができた。楽曲を丸投げしたら、とてもクールなものを思いついてくれたんだ」

――で、今その次作はプロセス的にはどの段階にあるの?
「まだあまり(苦笑)。オレたちは先延ばしにするタイプなんだよね。締め切りがスゴくタイトにならないと勤勉にならないんだ(笑)」

――つまり時間的に追い詰められないとやらないタイプなわけね。
「そういうことになるね(苦笑)」

――ということは…次作の発売は今年(2017年)の暮れか、来年(2018年)の初頭頃かな?
「Oh my god!!(笑) それまでにエンジンがかかってればの話だけどね。そうなってるといいけど(笑)」

――思えば、結成されて今年で16年だね。
「Oh my god!!」

――その間に約4年ほど活動休止してたけど、結成したときここまで長くやれると思えた?
「思いも寄らなかったね!それにオレたちはヒューズのついた爆弾みたいなものだったから、いつかは爆発する(=内部衝突する、もしくは解散する、という意味)だろうと思ってた。だけど、まだ爆発してなくてよかったよ。危うくそうなりそうだったことは何度かあったけど、なぜか大丈夫だった。まだ爆発していないんだよ(笑)」

――長くやってれば紆余曲折があって当然と言えば当然なわけだけど、FOB、そしてロックをやっててよかったと思ったことは? 「ロックンロールって恐らく、この惑星で最高のもののひとつだと思うんだ。オレの人生を何度も変えてくれた。演奏することもすばらしい。人々と自分たちをつなげてくれるし、世界中を回ることもできる。音楽はオレを変えてもくれたし、救ってもくれたし、悪い状態のときによりよい自分に導いてもくれた。そういうことができるものはほかにそんなにはないから。だから重要だと思う。間違いなく。と同時に、スゴく頭痛のタネでもあるけどさ笑)。そのおかげで、オレの人生は面白いものになってるんじゃないかな」

――FOBを結成したときは若く、20代の頃だったからバンド名がFALL OUT BOYでよかったと思うけど、もうピートもなんだかんだ言って30代後半(現在40歳)になったわけだから“BOY”っていうのもねえ(笑)。まぁBACKSTREET BOYSとかGET UP KIDSとかにも同じことが言えるんだけど(笑)。日本にも少年隊っていうのがいるけど。
「37歳だよ、オレも。もう”FALL OUT MAN”だよな(笑)。あまり響きはよくないけど、そっちを名乗ってみてもいいかもしれないね(笑)」

――どう見たって、BACKSTREET BOYSなんてボーイズには見えないからねえ…。
「だから“BACKSTREET MEN”だって(笑)」

――1stアルバム『TAKE THIS TO YOUR GRAVE』を出したのが2003年で、以降『AMERICAN BEAUTY/AMERICAN PSYCHO』までに計6枚のフル作を出してきてるけど、どの作品がベストかな?
「うわぁ…ベストアルバムかぁ。どの作品も全然違うからなあ。それにどれもその時々のスナップショットみたいなものだから。子供のときの自分がもうちょっと後でこれをやってみようと思っても無理なんだ。全然違うものができてしまう。オレがよく考える2枚はまず『INFINITY ON HIGH』(2007年)。スゴくヘンな作品だったから(笑)。その前の『FROM UNDER THE CORK TREE』(2005年)が成功したからなにをやってもよかったんだろうけど、オレたちはヘンな作品を作った。面白いことをしたと思うよ(笑)。当時“この作風がラジオ向きかどうかわからない”なんてよく言われたものさ。だけどヘンだってわかってても、オレたちはあの作品が好きだったんだ。 それから『FOLIE A DEUX』(2008年)のこともよく考えるね。アーティストをやってると、ときに物事をハードな方向に持っていきすぎて真逆のことをやってしまうことがある。この作品はそういう作品だったと思うよ。スゴく楽しい思い出があるからオレは大好きだけど、パトリック(・スタンプ/vo,g)はもっと違うことをやればよかったって思ってるかもしれない。オレ自身は好きな作品だし、その2作についてはよく考えるよ」

――自分が好きなのは『FROM UNDER THE CORK TREE』と、『AMERICAN BEAUTY/AMERICAN PSYCHO』ね。
「へぇ、それは興味深いね」

――理由は簡単で、自分がスゴく好きなタイプの楽曲が、それぞれにたくさん入ってるから。
「わかるよ、そう言うのも」

――長くGrindHouse fmっていうラジオ番組をやってるけど、ホントかけやすい楽曲が多いんだよ。
「だろうね。そう言えば、少し前にアメリカのラジオを聴いてたら、今でも『FROM UNDER THE CORK TREE』からの楽曲をよくかかってることに気づいたよ。だからキミが言ってるのもわかるね」

――反対にこれまで残してきた作品のなかで“これはちょっとなぁ…”って思う作品ってある?
「どの作品にも好きなところは必ずあるし、完成して1年くらい経ってから“ここを修正しよう、この曲を外したい”なんてやれればいいのにな、といつも思ってるよ(笑)。だけど嫌いな作品はないな。いじくり回す時間がありすぎると、ときには泥沼になってしまう。色がありすぎてそれらを全部混ぜてしまうと泥みたいな色になってしまうのと同じようにね。そうするとGUNS‘N’ROSESの『CHINESE DEMOCRACY』みたいになってしまう(笑)。GUNS ‘N’ROSESは史上最高のバンドだけど、あの作品を出すのにあんなに時間がかかっただろう?なにしろ時間がかかりすぎた。あり得ないよ、作品を1枚出すのに10年もかかるなんて。どこかで完成させないとね」

――パトリックがMAN WITH A MISSIONと”Dead End in Tokyo”を共作し、プロデュースもしてるんだけど。
「うん、聴いたよ。パトリックが聴かせてくれたんだ」

――この楽曲の構成が実にわかりやすくて、サビ前がFOB風で、サビになるといきなりMWAMになるっていう。
「言いたいことはわかるな」

――パトリックはけっこういろんなアーティストのプロデュースをするけど、ピートはやらないよね。
「あまりやらないね。オレにとっては強い魅力を感じないんだ。オレはPANIC! AT THE DISCOとかとレーベルをやってたり、俳優をやったりしてるけど、プロダクションは進んではやらないね。オレとパトリックでほかの人のために楽曲を一緒に書くことはあるけどね、スタジオで。だけど自分じゃそういうのがスゴく得意とかまあまあ得意だとか思ってないんだ。そんなに向いてる気もしないしね」

――息子さん、もうずいぶん大きくなったでしょ。いずれパンクロッカーとなり、タトゥーをガッツリ入れ、スケボーとかやり出したらどうする?(笑)
「息子はもう8歳だよ。常々タトゥーは嫌いだって言ってるけどね(笑)。だけど好きなタトゥーもあるみたいでさ。息子のために入れたヤツ。本来、子供たちって親に反抗するものだと思う。親父がタトゥーを入れてパンクロックをやってたら、子供は数学者にでもなるんじゃない?(笑) 反抗するって言ってもオレとは違うやり方になるだろうね」

――これまでにピートには何度も会い、いろいろ話も聞いてきたけど、それから得た印象だと、ピートって子供になにかを強いるってことはしなさそう。ときと場合によることもあるかもしれないけど…。
「そうだね。オレにとって親の仕事っていうのは導くことだと思ってる。特に男の子の場合はね。世のなかの最前線にいてもらう必要はないけど、最後部にいられるのもなんだかなという感じだし、なにかしら真ん中らへんにいてもらいたいんだ。スティーヴ・ジョブスみたいになってもらおうとは思わないけど、殺人犯を育てるのは嫌だよ(笑)。その中間くらいがちょうどいいんじゃないかな」

――よき父親でありたいって、当然思うよね。
「あぁ。オレの仕事のなかで世界いち重要なことだと思ってる。それまでオレは責任なんて負ったことがなかった。20代全部なんの責任も負わずに過ごしてきた。その逆だよね、今現在は。ロックバンドにいると、誰も自分のやってることなんて気にしないから。みんなオレたちが遅刻してきて、酔っ払って、クソみたいな出で立ちになってることを期待するわけだからさ。それがみんなの期待なんだ。わかるだろ? だから面倒を見ないといけない相手ができたのはオレにとってスゴくイイことだったんだ。自分のなかに思いやりの気持ちや忍耐みたいな、新たな感情が生まれてきたから。それまでのオレは扱いにくいヤツだったときもあったと思うけど、人間が柔らかくなったと思うんだ」

――FOBの中枢にいるし、父親であり、夫でもあるわけで…その責任は大きいね。
「責任がたくさんありすぎるんだよ(笑)」

ご存知の通り、この再来日公演から1年弱経った2018年1月に新作『MANIA』は発売された。

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