RECONSIDERATION(再考論)第3回

【2020.11.09更新】

文・有島博志

90年代中盤をきっかけにGREEN DAY、THE OFFSPRINGが牽引的役割を担いつつ引っ張り、一大ブームとなって席巻したパンクロックリバイバルこと“メロコア”。ちょうど欧米でグランジ/オルタナティヴロック旋風が吹き荒れた時期と被るけど、日本はグランジ/オルタナティヴロックには苦戦したものの、“メロコア”はものスゴいスピードで広がり、すんなりと根づいた。BAD RELIGION、RANCID、NOFXらはさらに頭角を現し、人気も得、スカコア、スカパンクといった“枝分かれジャンル”も人気に。SUICIDE MACHINE、BUCK O NINE、VOODOO GLOW SKULLS、REEL BIG FISH、LESS THAN JAKEらがシーンを賑わせた。
そのとき自分がもっともご執心だったのが、THE MIGHTY MIGHTY BOSSTONES(TMMB)だ。US東海岸マサチューセッツ州ボストン出身の大所帯8人組。1983年に結成、途中活動休止期間が3年ほどあったけど、その後活動を再開し、今日までの活動期間のトータルはなんと34年の長きに及ぶ。
自分がTMMBに出会ったのは、1993年発売の7曲入りEP『SKA-CORE, THE DEVIL, AND MORE』でだった。Mercury Recordsからのメジャーデビュー音源で、日本盤化も『猛犬注意!!』の邦題でリアルタイムでされた。

あまりのカッコよさに、第一聴時からホレ込んだ!(笑) バリエーション豊かな内容で、トップを飾るユル~いキャッチーチューン“Someday I Suppose”は、本国ではこのEPから2ヵ月後に発売される3rdでメジャーデビューフルアルバム『DON’T KNOW HOW TO PARTY』(1993年)からの1stシングル曲の先行収録。“Think Again”はMINOR THREATの、“Lights Out”はANGRY SAMOANSの、そして“Police Beat”はSSDの、とそれぞれハードコアパンク・カヴァ-。“Simmer Down”はかのボブ・マーリーのレゲエカヴァ-。あとの2曲はバンドのオリジナル曲で、うち1曲はライヴだ。聴いてて実に楽しい。
続いて『DON’T KNOW HOW TO PARTY』発売となるわけだけど、残念なことにSpotifyでは未公開、YouTubeにもあがってない。2曲のMVのみ視聴可だ。

Don’t Know How to Party
Someday I Suppose

この頃だったと思う。ロンドンの今は亡き老舗クラブ、マーキーでバンドのライヴを初めて観て、翌日ディッキー・バレット(vo)に初対面取材した。ライヴはもろエンタテイメントと言えるぐらい楽しく、面白いもので、ディッキーもかなりのジョーク好きで、取材中幾度となく笑わせられたほどだ。これでもう、自分は完全にディッキーとバンドの大ファンになってしまった。
余談だけど、ライヴを観た後、Metal Blade Recordsの設立者として有名なブライアン・スレイゲル氏に初めて会った。現場に一緒にいたカメラマンの知人の紹介だった。彼がTMMBについてこう語ったのが、少々意外だった。正直「メタルの権化のレーベルの設立者がなぜスカコアバンドのライヴに?」という思いを抱いてたからだ。
「前から何度もラヴコールを送ってたんだけど、フラレっぱなしでさ。結局彼らはうちにはこず、メジャーにいっちゃったよ」と笑った。つまりMetal Blade RecordsとしてTMMBと契約したかったけど実現しなかった、ということだ。確かにスカコア勢のなかではTMMBはVOODOO GLOW SKULLSと並んでメタル色を非常に強く表出させてるし、ディッキー自身も取材でそれを認めてる。そして、自分が『SKA-CORE, THE DEVIL, AND MORE』の後に、時代を遡るように聴いた5曲入りEP『WHERE’D YOU GO?』(1991年/日本盤未発売)がそれを決定づけた。バンドの前所属レーベルTaang! Recordsよりリリースされた2nd『MORE NOISE AND OTHER DISTURBANCES』からのある意味シングルカットだ。

収録曲5曲のうち3曲がハードロック/メタルのカヴァ-。AEROSMITH、METALLICA、VAN HALENだ。それぞれ原曲よりかなりアップテンポに調理されてて、特にVAN HALENの“Ain’t Talkin’ ‘Bout Love”のカヴァ-での、途中強引なまでのスカへの持っていき方には小笑いさせられた。
TMMBにゾッコンになった後、1st『DEVIL’S NIGHT OUT』(1989年)、『MORE NOISE AND OTHER DISTURBANCES』を遡りながら聴いた。当時、ロサンゼルスのメルローズアヴェニューにTaang!のアンテナストアがあり、そこでこの2作のアナログLPレコードを購入した。

『DON’T KNOW HOW TO PARTY』発売からしばらくして1st、2ndが遅ればせながら日本盤化された。日本で“メロコア”ブームが猛威を奮ってた最中の時期だ。『WHERE’D YOU GO?』収録のハードロック/メタルカヴァ-がその2作に分散しボートラとして追加収録され、ジャケアートもオリジナルをベースにやや手が入れられたものとなった。
この間、新作の発売が続いた。4th『QUESTION THE ANSWERS』(1994年)、5th『LET’S FACE IT』(邦題『ガンとばし!』/1997年)がそうだ。4thはSpotifyでの公開はない。

Kinder Words
Hell of a Hat

“メロコア”ももちろんだけど、スカコア、スカパンクも好きだ。あの独特の、つんのめるようなノリ、管楽器隊がブハブハ言わす賑やかさ、重厚感などはサイコーだ。TMMBの場合、4thから少し感じられたのだけど、5thがUSチャートで最高位27位をマークしたこともあったんだろう、それまでのザラッザラ感、鋭角的なエッジ、初期衝動が薄まったような気がした。それに合わせて、TMMBへの想いも下降線を辿っていったのだった。
まだGrindHouse magazineが創刊前のこと。先のディッキーの取材記事をストリートファッション誌に掲載してもらい、見本誌としてバンドのコンタクトアドレスに送った。すると、な、なんとティム・バートン(tenor sax)からお礼の返事をもらったのだ!それからティムと数回手紙のやり取りをしたことは言うまでもないだろう。そう、彼とは一時文通友達だったのだ(笑)。
余談だけど、大阪のベテランスカコアバンド、GELUGUGUが2nd『SPIRYTUS』(1999年)のジャケで、『MORE NOISE AND OTHER DISTURBANCES』のそれを完全にパロってる(笑)。

確かTMMB、1994年に来日したはずだ。それ以来四半世紀以上ご無沙汰だ。ぜひ再来日し、あの楽しい楽しいライヴパフォーマンスを見せてほしいものだ。

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