【2020.12.30更新】
文・有島博志
写真・Mike Hashimoto
背景にいったいなにがあるのか。単純に不運なだけなのか。それともなにか政治的なことが働き、行く手を邪魔してるのか。自分はその理由をまったく知らない。もし真相、事情を知ってる人がいるなら、教えてほしいくらいだ。ロサンゼルスをベースに活動するインダストリアルバンドと紹介されることが多い、DEADSYのことだ。
音楽的なことは当然ながら、中心人物のエライア・ブルー・オールマン(vo,g)の歌声がとにかく好きで、CDジャケなどのデザインのセンスのよさにも目を奪われた。よって先々を楽しみにしてた、私的2000年代初頭の最有望株だったのだけど…。
自分がDEADSYの名、音楽、そして存在を知ったのは、1999年のことだったと記憶する。JPレコード会社の洋楽部署のスタッフからデビュー音源『DEADSY』のアドバンスCDR、プレスリリース、そして紙焼きのモノクロアー写を手渡されたのが、最初だった。
「今度はこういうバンドがデビューすんだ?」と思ったものだ。当時は時代的にヘヴィロック花盛りのただ中にあった。各メジャーレーベルがこぞってその手の新人バンドを契約し、続々とデビューさせてた時期だった。そういうまるで“青田刈り”のような時期だったゆえそのときは、その手の新人バンドがまたひとつ増えた、という程度の印象しかなかった。
で、音源を聴くや、DEADSYが数多のヘヴィロック系新人バンド勢とは一線を画す、独自のサウンドアプローチを持つことを知った。そして、そのビジュアルから淡いホラー風味も感じた。下記のが、最初に受け取った紙焼きのモノクロアー写だ。
それからずいぶん経った頃、JPレコード会社の洋楽部署のスタッフより「DEADSYの発売が本国で中止になりました」との連絡があった。その理由は不明だった。所属アーティストの契約解除に関して、その理由を本国のレコード会社に問い合わせても返事がない、というのが常だ。音源を気に入ってたので発売中止は実に残念だった。その数年後、もうほとんどDEADSYの名が頭んなかから消えかかってた頃、突然(現在はUniversal Music Group傘下)DreamworksからElementreeを介してのデビューが決まった、との情報を聞きつけた。前のときとは違うJPレコード会社なので、早速洋楽部署に電話をし、詳細を確認した。当時メジャーにありがちなことだったけど、情報は皆無でDEADSYの名すら知らない、と言われた。追跡調査をお願いすると、少しして『Commencement』のアドバンス音源CDRが届いた。
またオハコの管理の悪さだ、先の『DEADSY』のアドバンスCDRがどうしても見つからない(滝汗)。捨てるわけも、誰かに貸すわけもないので絶対どこかにあるハズだ…。よって『DEADSY』と『Commencement』がタイトル違いの同一内容なのか否か、録り直したものなのか、の確認ができない…。
でだ、『Commencement』は、第一聴時から大のお気に入りとなる内容だった。適度にラウドかつヘヴィ、また適度にダークな、絶妙なバランス感に裏打ちされたサウンドは少々物悲しく、耳と心に深く刻み込まれるものだった。シンセの被せ方、シンセドラムの使用頻度の多さから80年代風味が濃厚で、かつて流行ったシンセポップを思い起こしたほどだ。かのRUSHの“Tom Sawyer”のカヴァーも◯だ。
ご存知の通り、Elementreeは当時KORNがやってたレーベルだ。その流れからジョナサン・デイヴィスが“The Key To Gramercy Park”にゲスト参加し(MVには出てない)、エライアとデュエットしてるほか、元YOUTH OF TODAYほかのリッチー・バーケンヘッド、ORGYのジェイ・ゴードン、QUEENS OF THE STONE AGEほかのトロイ・ヴァン・リューウェンらがゲスト参加した豪華な内容だ。
ひとりでも多くの人に聴いてほしい、またきっかけさえあれば聴いてもらえるし、気に入ってももらえるとの強い想いから『Commencement』の日本盤化をJPレコード会社に持ちかけた。その結果、実現し、2002年春に実現した。
この作品が発売されてからしばらくして偶然、DEADSYのライヴを観ることができた。ほかのアーティストの取材でハリウッドに滞在してたとき、クラブのギグカレンダーを見てると、サンセットストリップにある老舗クラブ、WhiskyーAーGoーGoでDEADSYのライヴが自分がハリウッド滞在期間中にあることを知り、かなりテンションが上がったものだ。早速カメラマンを手配し、ライヴ当日を迎えた。1曲目が先のRUSHの“Tom Sawyer”のカヴァーで、セトリが意外すぎていきなりヤラれたことを覚えてる。以下はそのときのライヴ写真だ。
ライヴはスゴくよかった。多いに楽しんだ。ライヴがやっと観れたという満足感も手伝い、終演後マーチャンブースにまっしぐら(笑)。Tシャツ自体の色合いと、バンドロゴだけのシンプルなデザインのマッチングが気に入り即購入した。
そして2006年8月、2nd『PHANTASMAGORE』が発売された。
前作を発売したElementree/Dreamworksからは離脱してて、かつてKORNやINCUBUSらが在籍したImmortal Recordsからの発売だった。Immortalは流通網を持たないためそれまでずっとメジャーのEpic Recordsが流通を担ってた。よってレーベルクレジットはImmortal/Epicとなり、KORNらの作品はEpicより発売されてきた。『PHANTASMAGORE』発売になぜEpicがつかなかったのかは不明だ。日本盤化はされてない。
『PHANTASMAGORE』の作風は基本、『Commencement』の根っ子はほぼ同じと言っていい。
ただ、シンセの被せ方がかなり変わったし、シンセドラムもほとんど使われてない。そのぶん、前作より肉厚なギターが前に出てるほか、前作にはなかったタイプの曲調の曲が目立ち、作品1枚を通しての表情がとても豊かになってる。そういう意味ではニュアンス、タッチが変わった、と聴こえるかもしれない。THE ROLLING STONESの代表曲中の代表曲の1曲“Paint It Black”(邦題“黒くぬれ!”)をカヴァーしてる。余談だけど、“黒くぬれ!”は幼少の頃、母親が買い与えてくれたドーナツ盤シングルレコードの1枚だっただけにこの曲には特別な思い入れがある。
『PHANTASMAGORE』発売後、DEADSYは精力的にツアーに出た。KORNが主導・先導するパッケージツアー、Family Values Tour 2006に帯同。この年はKORNは当然、DEFTONES、STONE SOUR、FLYLEAFらが主な出演陣で、DEADSYはほぼ連日メインステージの一番手としてステージに上がった(ロサンゼルス公演を観てる)。その合間を塗って、この年は単発開催だったLollapaloozaにも出演した。Family Values Tour 2006の模様は後日CD、DVD化され、日本盤もリリースされた。DEADSYはアコースティカルな“Carrying Over”1曲がそれぞれに収録された。以下はDVDのジャケだけど、CD版のも同じだ。
そうした一連の活動を終えた後、DEADSYの活動は徐々にペースダウンし、情報も途絶えがちになる。活動休止のアナウンスはされてないようだけど、活動サイクルがグッとスローになったのは残念でならない。才能と個性にあふれたバンドが必ずしも頭角を現す、成功するとは限らないのがミュージックシーンの常だけど、それにしてもDEADSYの場合はあまりにも不運続きだし、なにかに足を引っ張られてるんじゃないか、と穿った見方さえもしてしまうくらいだ。また活発に活動してほしいと願うばかりだ。これまでのところ2本のMVが公開されてる。『Commencement』から“The Key To Gramercy Park”と“Brand New Love”だ。後者にジョナサン・デイヴィスがチラッと映る。ぜひ観てみてほしい。
なお、ここまで書かなかったけど、中心人物のエライア・ブルー・オールマンは、元ALLMAN BROTHERS BANDの故グレッグ・オールマン(vo,key,g)と、女性シンガー、シェールの間に生を受けた息子だ。まさにサラブレッドの血筋を引く人物だ。
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