【2021.02.10更新】
文・有島博志
1991年秋にアメリカで勃発、一気に表面化し、猛威を振るったグランジ/オルタナティヴロックムーヴメント。
これまでに何度もあちこちで書き、言ってきた。とにかくその音楽ジャンルは、日本は苦戦した。なかなか支持されない、根づかないの時期が長く続いた。だけど、それを横目にパンクロック・リバイバル、つまりメロコアや、ある部分ファン層が被る(ニューヨーク・)ハードコアはすんなり日本に流入し、アッと言う間に盛り上がり、根づくなどのトレンドとなった。(ニューヨーク・)ハードコアバンド勢で日本でその先鞭をつけたのは、SICK OF IT ALL(SOIA)だった。COCOBATのTAKE-SHIT(b)の主導・先導でSOIAを招聘、JPレコード会社大手S社がそれに合わせ、それまで輸入盤でしか購入できなかった2nd『JUST LOOK AROUND』を日本盤化した。その初来日を新宿のライヴハウス、Antiknockで観た。客席への入口のドアが閉まらないほどの超満員でまさに酸欠状態のライヴだったことを覚えてる。以降、BIOHAZARD、EARTH CRISIS、SNAPCASE、VISION OF DISORDERらがコンスタントに初来日し、大盛り上がりした。それと歩調を合わせるように、(ニューヨーク・)ハードコアバンド勢の作品が徐々に、しかし着実にJPレコード会社より日本盤リリースされた。そのひとつに、SHELTERがいる。Roadrunner Recordsの流通で3rdフルアルバム『MANTRA』(1995年)がグローバルリリースされたのだ。自分は“伝説”と言わしめたYOUTH OF TODAY(YOT)を当時まったく通ってなかったので知らなかったのだけど、SHELTERはYOTの主要メンバーだったレイ・カッポ(vo)とジョン・ポーセル(g)を中心に1991年に結成された。一番最初に聴いたのが、Roadrunner Recordsより日本盤リリースされた3rdフルアルバム『MANTRA』(1995年)だった。
当時、それまでに自分が聴いてきた非常に限られた(ニューヨーク・)ハードコアとは明らかに違うサウンド。キャッチーで、メロディが心底優しく、とても聴きやすい。当初、1曲目の “Message Of The Bhagavat”の宗教ちっくなイントロとアウトロがなにを意味するのかがわからなかったけど、ジャケに描かれた宗教画のようなアートから得るイメージと、そのイントロ音とアウトロ音が合致した。このジャケデザインがプロモ用のステッカーとしてUS製作もされた。
3rdフルからは“Here We Go”でMVが製作され、1996年のDynamo Open Airで収録された “Message Of The Bhagavat”~“Shelter”のライヴ映像も公開されてる。
3rdフルを気に入ったので調べてみた。レイとポーセルは、インドやネパールで多数派を占めるヒンドゥー教の神の1柱であるクリシュナ教を信仰する熱心な信者だ。音楽や歌詞やライヴやビジュアルを通して、クリシュナ教を広く伝導する。よって、彼らの音楽を自ら“クリシュナコア”と呼ぶ。
1997年、4thフルアルバム『BEYOND PLANET EARTH』が発売された。
4thフルの特徴は、なんと言っても3rdフルよりさらにキャッチーになってること。メロディの流れ方、組み方はもはや自分の、当時のハードコア感覚の枠を超えてて、このサウンド、作品をはたして“ハードコア”の名の下に紹介していいのかと戸惑ったものだ。4曲目の“Alone On My Birthday”はスカ調チューンで、14曲目の“Man Or Beast (End Of The Millennium Mix)”は緩めのダンスミックスだ。スカといい、ダンスミックスといい、バンドにとって実験的一面も見せた作品とも言えるだろう。CDのジュエルケースのトレイ下の裏ジャケの裏には、ヒンドゥー教の神聖な言葉であるサンスクリット語で“オーム”と書かれてる。
この作品から“Whole Wide World”のMVが製作されてる。
そして、4thフル発売後にバンドは初来日した。渋谷CYCLONE公演を観たのだけど、自分には初めての光景を目撃し、体験した。伝統的な衣装を身にまとい、アクセサリーを身につけた、日本人、外国人の信者たちが会場前に集い、民族打楽器を打ち鳴らしながら踊ってるのだ。これには驚き、しばらく立ち止まって眺めてたほどだ。確か物販ブースでは“クリシュナフード”なるものが売られてたと記憶する。バンドのライヴは軽快で直線的なもので楽しめた。バンドにさらに興味を持ったので、キャリアを遡りながら音源を聴いていった。まずはバンド2ndリリースのミニアルバムで、パンクロック/ハードコア専門レーベル、REVELATION RECORDS発売の『PERFECTION OF DESIRE』(1990年)。クレジット上は7曲入りだけど、実は10曲入りだ。
音楽性は自分がSHELTERを初めて聴いた3rdフルや4thフルほどキャッチーではなく、インディーならではのザラッとした触感もあり、混沌とした雰囲気を漂わせる曲もある。7曲目の“Shelter”は、少々ダブっぽい音処理が施された、いわゆるバンドのテーマ曲だろう。シークレットトラック3曲のうち1曲は民族音楽と説法とおぼしきスポークンワードだ。
1991年に、REVELATION RECORDSより発売されたRAY & PORCELL名義の2曲入りシングル『RAY & PORCELL』。SHELTERをスタートしたばかりなのに、なぜその直後に2人の名義で音源を制作し、出したのかはわからない。全パートがほとんど2人で録られてる。
再びSHELTERに戻り、1stフルアルバム『QUEST FOR CERTAINTY』が、1992年にREVELATION RECORDSより発売された。前ミニアルバムと同一方向にあると言える内容だ。クレジット上は8曲入りだけど、実は12曲入りだ。4曲目の“After Forever”はBLACK SABBATHのカヴァー。シークレットトラック4曲は民族音楽と説法とおぼしきスポークンワードだ。
続くは、1993年にEqual Vision Recordsより発売された2ndフルアルバム『ATTAINING THE SUPREME』だ。宗教画ジャケが美しい。
この作品で3rdフル及び4thフルでのキャッチーで耳に優しく、聴きやすい路線に傾き始める。4曲目“Consumer”と、6曲目“Not Just A Package”のリフ展開に、ポーセルが明らかにIRON MAIDENの影響下にあることがうかがえる。10曲目“Shelter”は再録の1993ヴァージョンだ。また、この作品で、Equal Vision Recordsがレイの主宰レーベルであることを知った。オープニングを飾る“Better Way”でMVが製作されてる。
ここでようやく上記した、自分が初めてSHELTERを知ったときに追いついたわけだけど、当然引き続き追っかけた。2ndフルが出た同じ年にバンドキャリア初のライヴ映像作品『SANKIRTANA YAJNA A LIVE TOUR VIDEO』がVHSで発売された。家庭用ビデオで撮られたアメリカ、ドイツの計6都市のクラブなどでのライヴが観られる。
その後バンドはRoadrunnerよりパンクロック/ハードコア専門レーベル、Victory Recordsに移籍し、2000年に5thフルアルバム『WHEN 20 SUMMERS PASS』を発売する。
それまでとは一転、脇目もふらず、心地よくまっすぐ疾走するハードコアアルバムだ。勢いがある。キャッチーさはやや控えめながら、わかりやすさは変わらず。4曲目“Don’t Walk Away”でMVが製作されてる。
その“Don’t Walk Away”のMVは、2001年にVictory発売のMV集『VICTORY VIDEO COLLECTION 2』にも収録されてる。ほかにはSNAPCASE、STRIFE、GRADE、EARTH CRISISらが参加してる。下記のはVHSだけど、DVD化もされてる。
次の映像作品『release』はなかなか興味深い内容だ。ライヴフッテージを挟みつつファン、アーティストが代わる代わる登場して語る。パンクロック/ハードコアとは?モッシュ/ダイヴ/クラウドサーフとは?アーティスト、ファンにとってのクラブのあるべき姿とは?などがお題目だ。SHELTERはフランクリン・ライ(b)が応えてる。
この後、Century Media Recordsの流通で、SHELTERのレーベル、supersoulから6thフルアルバム『THE PURPOSE, THE PASSION』(2001年)が、そしてベルギーに居を構えるGood Life Recordingsより7thフルアルバム『ETERNAL』(2006年)が発売された。
両作品の作風とも3rdフル及び4thフルと、5thフルのど真んなかをいくもので、聴いてて爽快だ。7thフルがもっとも直近の作品だ。と言ってももう、15年前だけど…また作品を出してほしいものだ。
なお、レイはSHELTERの活動と並行してストレートエッジバンド、BATTERYの元メンバー2人らと別バンド、BETTER THAN A THOUSANDをやってた。こちらは生粋の(ニューヨーク・)ハードコアを聴かせてた。これまでにオリジナルフルアルバムを2枚残してるのだけど、下記のは2ndフルの『VALUE DRIVEN』(1999年)だ。
一聴してわかる通り、SHELTERのそれより音楽性は直線的かつ直情的な(ニューヨーク・)ハードコアだ。
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