Reconsideration(再考論) 第9回

【2021.11.10更新】

文・有島博志

1990年代初頭から2000年から数年間のUSロックシーンはホントにスゴかった、と今つくづく思う。
その引き金を引いたのは改めて言うまでもない、NIRVANA、PEARL JAM、SOUNDGARDENらが先頭に立って牽引したグランジ/オルタナティヴロック・ムーヴメント。このムーヴメントは、同時にいくつものタイプのアンダーグラウンドミュージックを表舞台へと引き上げる役割も果たした。まずはインダストリアル。次にパンクロック・リバイバル(いわゆるメロコア・ブーム)とシーンは流れていき、さらにヘヴィロック(つまるところのニューメタル)、ミクスチャーロックと続いた。とにかくこの時期新たに出会ったバンドひとつひとつがカッコよくて、刺激的で、音源聴いちゃあ「うわっ、ヤベぇ!」を連発してたものだ(笑)。
そう直感し、ピンときたバンドの数が当時あまりにも多すぎて、ついていけない、追いきれないバンドがいくつも出た。音楽メディア人のひとりとしてちゃんとサポートできてなかった、というのが正直なところで、それにはときに“後悔”すら覚える。そのバンドの“旬の時期”を逃してしまったりとか、そのバンドがもう解散してしまったりとかがあったからだ…。
WILL HAVENは、個人的にちゃんと紹介できてなかったバンドのひとつ。US西海岸カリフォルニア州サクラメント産の4人組だ。サクラメントはサンフランシスコにほど近い小さな町で、在ロサンゼルスの友人、知人たちは口を揃えて「いくら仕事とは言え、あそこに泊まるのは避けたい、なにもない町だから」と言う。それでもDEFTONES、PAPA ROACHの出身地ゆえ小さい町ながらも、それなりにホットなところもあるんだろうと思ったのだけど、その見方は甘かった。PANTERA+SEPULTURA+PRONGなる組み合わせのライヴ観戦や、DEFTONESの3rdアルバム『WHITE PONY』(2000年)発売直前期に実現した対面取材などで過去、数回現地を訪れたことがあるのだけど、友人、知人の指摘の通りだった。仕事をしてない時間になにもする場所がない、いくところもない、時間をもて余す町だった(汗)。
実はWILL HAVENはちゃんと音源を聴く前に先にライヴを観てた、という経験してる。LIMP BIZKITが1stアルバム『THREE DOLLAR BILL, Y’ALL$』(1997年)を出し、ツアーに出た。バンドに対面取材すべくニューヨークへ飛んだ。DEFTONESがトリで、その前がLIMP BIZKIT。そして、オープナーがWILL HAVENだった。LIMP BIZKITの取材がバンドがステージに上がる前の時間を指定してきたため、WILL HAVENは取材準備、待機でほとんど観れないに等しかった。チラ観、ちょい聴きレベルだったものの興味は持ったので、それからしばらくしてバンドにとって2ndリリースとなるハードコアレーベル、Revelation Records傘下のCrisis Recordsより発売された1stフルアルバム『el diablo』(日本盤未発売/1997年)を聴いた。el diabloはスペイン語で悪魔という意味だ。

『el diablo』※収録曲10曲が1曲ずつ出てきます

聴いたときの第一印象は、HELMETの1stアルバム『STRAP IT ON』(1990年)と、NEUROSISが異種交配したようなイメージだった。ブチ切れまくり、常にテンションがピーク値に達するグレイディ・エイヴネルの激烈ヴォーカル、変則チューニングで繰り出すジェフ・アーウィンの独特な響きを放つギターリフ、ひしゃげたベース音、DEFTONESのエイヴ・カニンガム(ds)のそれを想起させるスコンと抜けのいいリムショットの連打などが一枚岩状態で、かつ混沌/混濁ノイズをブッ放ちながらぐいぐい迫ってくるそのスタイルにはけっこう響いた。アンビエント系からの影響も垣間見られ、幅広い音楽的背景を持つことも窺わせた。
2ndアルバム『WHVN』は1999年に、Revelation Records/Crisis Records→Music For Nations経由で日本盤化された。
音楽的方向性は基本、『el diablo』のそれの延長線上にある、とは言うものの、この作品は残念ながらYouTubeにもSpotifyにも上がってない。『el diablo』でもそうだったけど、薄厚、前後、強弱をハッキリつけた音処理も好きなのだけど…。MVも製作されてないようだ。

下記のはMusic For Nations製作のポストカードだ。

ポストカード/表
ポストカード/裏

3rdアルバム『carpe diem』は、『WHVN』と同じ流れで2001年に日本盤リリースされてる。carpe diemとは、スロバキア語で今を楽しめという意味だ。

前2作よりさらに重量感を増し、より押っせ押せ感が全面に出てて、勢いもあり、本当にカッコいいのだけど『WHVN』同様、YouTubeにもSpotifyにも上がってなくて試聴してもらえないのがまことに残念でならない。1曲“carpe diem”のMVが観られる。DEFTONESのチノ・モレノ(vo)がカメオ出演してる。

“carpe diem”MV @Brad Oates

2002年初夏、WILL HAVENはExtreme The Dojo Vol.4参戦で初来日した。東京・渋谷CLUB QUATTROで観たけど、ものスゴいテンションで圧倒されっぱなしだったことを今でも覚えてる。
だけど、とにかくビックリし、ショックだったのは、その初来日からしばらくしてグレイディが脱退してしまったのだ。バンドは後任にジェフ・ジャウォルスキを招き、4thアルバム『THE HIEROPHANT』(2007年/日本盤未発売)をBieler Bros. Recordsよりリリースするも、個人的には音楽的方向性がやや変わり、それまでのテンション、勢いも失ってしまった、と感じ、一気に注目度は下がってしまった。『THE HIEROPHANT』は試聴可なので参考にしてみてほしい。

“THE HIEROPHANT”@Daniel Bruno MV

この後、グレイディは2005年から復帰したり再脱退を繰り返しつつ、バンドは作品を出し続けるもかつての勢いやテンションを取り戻すことはできてない。まさに、バンドの“旬の時期”を逃してしまった典型的な例と言っていいだろう。
バンドは『WHVN』を出した頃から、欧米でゆっくりとだけど、しかし着実に注目度、知名度を高めていった。もちろん地道なツアーの賜物でもあるのだけど、トリビュートアルバムへの楽曲提供や、ほかのアーティストの作品へのメンバーのfeat.参加もその後押しとなった。インターネットが今ほど普及してなくて、かつSNSもまだなかった時代には、そうしたことがバンド名拡散に力を発揮したと言える。
トリビュートアルバムへの楽曲提供は、伝説のハードコアパンクバンド、BAD BRAINSのだ。Century Mediaよりリリースされた『NEVER GIVE IN:A TRIBUTE TO BAD BRAINS』(1999年)にWILL HAVENは“The Regulator”のカヴァーを提供してる。YouTubeにあがってるのだけど、なぜか1曲目のMOBYの後に無音状態になり、その後音は復活、31分37秒あたりのところでWILL HAVENは登場する。

“NEVER GIVE IN:A TRIBUTE TO BAD BRAINS”@Contraktor

ほかのアーティストの作品へのメンバーのfeat.参加は、マックス・カヴァレラ率いるSOULFLYの2ndアルバム『PRIMITIVE』(2000年)収録曲“Pain”にグレイディとDEFTONESのチノの、いわゆる“サクラメントブラザーズ”がfeat.参加してる。

SOULFLY/『PRIMITIVE』

“carpe diem”のMVへのチノのカメオ出演、“Pain”への“サクラメントブラザーズ”のfeat.参加、ドラムのリムショット音といい、WILL HAVENとDEFTONESとの関係は相当近い。WILL HAVENの前身バンド、FLOWERではDEFTONESのステファン・カーペンターがギターを弾いてたという。
近日、2002年初夏の初来日時に実現した対面取材記事をリバイバル公開する予定だ。お楽しみに~。

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