Tシャツ博物館

【2021.02.08更新】

文・有島博志

過度の期待はしない方がいい、とよく言われる。その方がいい、と自分も思う。しかし、自分はこのAMERICAN HEAD CHARGEには桁違いに過度な期待をしてた。US中西部ミネソタ州ミネアポリス出身の7人組の彼らのことを教えてくれたのは、かのリック・ルービンだった。
2000年6月、RAGE AGAINST THE MACHINE(RATM)が3度目の来日をしたとき、リックも同行してた。会場の幕張メッセ内の一室でトム・モレロへの対面取材を終えた後にホスピタリティルームを覗くと、なんとリックがそこに!実はリック主宰レーベルのDef American Recordings(現american recordings)が設立され少しした頃、取材でハリウッドの丘の中腹にあった家にお邪魔したことがあった。「覚えててくれてるといいな」という想いで声をかけたらありがたいことに覚えてくれてて、しばしの間雑談に。で、その最中にリックがこう切り出した。
「お薦めしたいバンドがいるんだ。スゴくヘヴィなバンドだよ。来春以降に新作を出す予定さ」
それがAMERICAN HEAD CHARGE(AHC)だった。初めて聞いたバンドだったので、調べてみると、1999年に1st『TREPANATION』を自主リリースしてることがわかった。当然のごとく日本ではその作品は入手できず、アメリカに出張にいった際にでも、と楽しみにしてたのだけど、訪れた街のどのCDショップにいっても見つけられなかった(涙)。唯一TOWER RECORDSサンセットブールヴァード店(閉店)にはバンド名が手書きされた仕切り板が入れられたところはあったものの、CDはなかった。
その直後、Dwell Recordsより発売のMINISTRYのトリビュートアルバム『DEVILSWORK: A TRIBUTE TO MINISTRY』と、MARILYN MANSONのトリビュートアルバム『ANTHEMS OF RUST AND DECAY: A TRIBUTE TO MARILYN MANSON』 にAHCが参加してることを知った。
この2作品は難なく入手できた。前者には“Filth Pig”のカヴァーが、後者には”Irresponsible Hate Anthem”のカヴァーが提供されてる。オリジナル楽曲ではないし、かつ提供曲も1曲ずつだったけど、AHCがどういう音楽をやるのか、の“触り”程度はわかり、ますますバンドへの期待は高まった。

そして、ついに2ndであり、メジャーデビュー作となった『THE WAR OF ART』の音源が 2001年夏前頃にJPレコード会社を通じて届いた。当時、AHCはまだいち新人バンドだ。新人バンドの音源に、あそこまで到着に歓喜し、試聴にワクワクウキウキしたのは後にも先にもこのときが初めてだった。

AHCの音楽をわかりやすく一言で言うならインダストリアルメタル。MINISTRYやマンソンのトリビュート作に参加したのも納得だ。背筋がゾクッとするような冷え冷えとしたサンプル音、キーボード音がしょっちゅう使われ、基本ダークでヘヴィで重厚。殺気すら感じる。キャメロン・ヒーコックのヴォーカルは叫び系ながらデスヴォイスは一切ないもけっこう押しは強い。サビでは一転メロディックになり、不気味な雰囲気を浮遊させる。ぜひ一聴をお薦めしたい。
期待通り、イヤそれ以上の仕上がりで、最高にカッコいい!めちゃくちゃ気に入った。
当然ライヴが観たくなるわけで、Ozzfest 2001にAHCが出演してたので、カリフォルニア州サンバーナーディノ公演を観た。AHCは2ndステージに出てた。このときの模様は『OZZFEST 2001: THE SECOND MILLENNIUM』(2001年)のタイトルでCD化され、後日Spotifyでも公開されてるのだけど、なぜか大半の収録曲がブロック状態になってる。
AHCは“Reach And Touch”が収録されてるのだけど…。

そのOzzfest 2001の物販ブースで購入したのが、下記のTシャツだ。

Front
Back

デザインも気に入り、当時けっこう着たものだ。その後AHCはパッケージツアー、The Pledge Of Allegiance Tour参戦を経て(RAMMSTEIN頁を参照。ツアーTシャツを購入https://grindhouse.site/t-shirt-museum-part27-rammstein/)、2002年3月にSLIPKNOTの3度目の来日公演にサポートアクトとして帯同した。AHCをより知ってもらうために『THE WAR OF ART』で製作された2本のMVもぜひ観てほしい。

AMERICAN HEAD CHARGE “Just So You Know”
AMERICAN HEAD CHARGE “All Wrapped Up”

“All Wrapped Up”の映像はもう狂気の沙汰で、ほとんどスプラッターホラーの世界。
映画『JFK』『ミシシッピー・バーニング』などの出演で知られる名バイプレーヤー、マイケル・ルーカーが殺人鬼役で出演してる。
冒頭に、過度の期待はしない方がいい、と書いたのは、こういうことがあったからだ。
『THE WAR OF ART』発売に伴う活動がひと段落した頃、海の向こうからいろいろ聞こえてきた。『THE WAR OF ART』はロサンゼルスにあるスタジオ、ザ・マンションでレコーディングされた。そのスタジオはリック所有なのだけど、必要なときに必要なメンバーが集まらない、作業は遅々として進まず、よって制作費を大幅にオーバー。先述した通り、AHCはまだいち新人バンドだ。そのバンドにこれは大きなダメージで、「彼らに次americanからのリリースはない」ともっぱらだった。事実、AHCはamerican recordingsより離脱。以降、メタルインディーレーベルを足場に活動していくのだけど、活動ペースはダウンし、音楽性にはかつてのような突き抜けたカッコよさはなくなってた。この時点で、自分のなかにあったAHCへの期待感はヒュルヒュルと萎んだ。その間にメンバー2人、ツインギター隊のひとりブライアン・オットソンと、結成メンバーのひとりチャド・ハンクス(b)が亡くなったのも大きかった…。
AHCの直近のリリースは、Napalm Recordsからの『TANGO UMBRELLA』(2016年)だ。

一聴でわかる、やはり『THE WAR OF ART』とは違う…。

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