Tシャツ博物館 第6回

【2020.06.17更新】

文:有島博志

誰もがお気に入りバンドのライヴを観て気分が高揚、終演後に物販ブースに走り、マーチャンを買う、という衝動に走るっていうことがままあると思う。自分にもそういうところがある。第6回目の更新の今回は、これまでの内容とはやや趣を変え、ライヴリポートのアーカイブ公開と、そのライヴを観たときに購入したマーチャンを紹介する。THE DILLINGER ESCAPE PLAN(TDEP)と、THE LOCUSTだ。2004年2月23日に観たもので、 同年3月31日発行のGrindHouse magazine Vol.23にそのライヴリポートを掲載した。その内容はこうだ。

photo by Mike Hashimoto

“Extreme The Dojo Vol.10 Special!! ”参戦で3度目の来日を飾るTDEPをヘッドラインに、THE LOCUSTなど3バンドが帯同した最新US轟音クラブツアーを、ウェストハリウッドのハウス・オブ・ブルースで観た。
FAITH NO MOREほかのマイク・パットン(vo)がゲスト参加したEP『IRONY IS A DEAD SCENE』(2002年/日本盤未発売)に続く新フル作の発売が当初の予定より延びてたことや、来日も決まってたこともありTDEP目当てだったけど、初見のTHE LOCUSTには粉砕されるわ、YOUR ENEMIES FRIEND(YEF)なる“新たな気になるバンド”に出会えるわで、予想よりも何倍もの収穫があった夜となった。
夜7時30分、場内のお客さんの数はまだまばら。そこに登場したのがBORN AGAINSTの構成員を含むロサンゼルス産のWRANGLER BRUTES。終始ヴォーカルがアジるも、ついぞ攻撃対象が見えずで少ないお客さんも引いてた。代わって8時過ぎに出たのかYEF。現地インディーロック系フリペに前から名が出てたバンドで、TDEPの(当時の)マネージャーの主宰レーベルBuddyheadから初フル作『YOU ARE BEING VIDEOTAPE』(日本盤未発売)を出したばかりの女性3人男性2人の5人組だ。ノイジーでパンクがかったサウンドに刹那的なヴォーカルとシンセ音が乗るスタイルは好感度高しで、最後には身体ごと持っていかれてた。物販で先のCDも即買いした。
この頃になると、場内のフロアはお客さんでだんだん埋まってきてた。THE LOCUSTへの期待感や注目度が日本よりも高いことを窺わせる。9時頃、THE LOCUSTのプレイ、サウンドがスパークすると、場内の雰囲気は一変した。昨春(2003年)『PLAGUE SOUNDSCAPES』で正式日本デビュー、来日が決定したものの中止となったため今回が初観戦だったけど、しょっぱなからその超絶さにド肝を抜かれた。虫コスチュームだかバッタ衣装だかよく知らないけど、とても人間の成せる技とは思えないバカテクから直線的に放射される激烈サウンドは、もうクレイジーの一言。さらにその間からヒュンヒュンピューピューとエレクトロニクス音も飛び交うんだから逃場なんてありゃしない。それに屈服し、粉砕されるしか“術”がない。完全にトバされた40分だった。
そして、10時少し前、客電が落ち行進曲みたいなSEが流れ出すや、ステージ袖からスモークが漂いだした。そこにメンバーが登場し、所定の位置についた途端、“The Mullet Burden”でTDEPの驚愕パフォーマンスの幕は切って落とされた。その瞬間、白や黄色の自己主張の強い光の筋が激しく交差し合い、一気にステージ上が昼間のように明るくなった。昨年(2003年)1月ニューヨークのトライベッカでのクラブギグが初体験だったけど、そのときのパフォーマンスと今回のとじゃ明らかに異なった。“見せて魅せる”とでも言うか。スモークやライティングもそうだし、ステージ上3ヵ所にお立ち台が置かれ、グレッグ・プシアト(vo)、ベン・ウェインマン(g)、ブライアン・ベノルト(g)が代わる代わる上に上がっては客席を煽ったり、ギターを弾きまくったりしつつ大きく盛り上げてた。この視覚効果を狙ったパフォーマンスは予想をはるかに超えインパクト大だ。疾走しつつテクニカルで起伏が激しくなることも忘れない。ジャズ展開すら聴かせるTDEPサウンドをよく聴かせ、魅せることに成功してた。映画『UNDERWORLD』のサントラ収録曲“Baby’s First Coffin”を含め新曲も4曲披露された。このTDEP、日本じゃまた“知る人ぞ知る”’的存在ながら独自性あふれるサウンドとパフォーマンスは相当テンションが高い。今回の
“Extreme The Dojo Vol.10 Special!! ”参戦での来日でそれを体感してほしい。なお、新作(『MISS MACHINE』)は6月中旬には発売される予定だ。

今思うに、このときのTDEPはまさにノリにノってた。上昇気流に乗りかけた頃だった。そのパワー、エネルギーなどは破壊力満載で、まるでそれに背中を押されるように物販ブースへと走った。そして、Tシャツとパーカーを購入した。当時は迷彩柄がなによりも大好きで、マジで「迷彩柄はオレのためにある!」と思ってたのでTシャツは問答無用で即買い。パーカーは確か数種類あったと記憶するけど、なかでも一番シンプルなプリントデザインのを選んだ。

当然、THE LOCUSTのも買う気満々だったけど、どうもプリントデザインにピンとくるものがなく、このときは購入を見送った。
で、最終的にTHE LOCUSTのTシャツを購入したのは、それから4年近く経った2008年3月のこと。7年ぶりの再来日公演が実現したときだ。渋谷(当時)O-NEST初日公演と、六本木SUPER DELUXE公演を観てる。マイク・パットン主宰レーベルのIpecacから2005年発売のEP『SAFETY SECOND, BODY LAST』(2005年/日本盤未発売)のアートワークのだ。O-NEST初日公演終演後、当時のJPレコード会社の担当ディレクター嬢の紹介で、バンドの中心人物、ジャスティン・ピアソン(vo,b)としばし立ち話をした。イナゴコスチュームを脱いだ“スッピン”だった(笑)。とても気さくな人だった。

余談だけど、ノりにノりだしたTDEPを観たとき、「いずれGrindHouse recordingsから彼らの作品の日本盤CDを出せたらいいなあ」との淡い希望、期待を抱いたものだけど、後にそれは現実のものとなる。5th『ONE OF US IS THE KILLER』(2013年)で。発売することが決まったときは本当に嬉しかった。

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