【2021.01.25更新】
文・有島博志
1990年代の洋楽ロックシーンには、さまざまな“トレンド”があった。グランジ/オルタナティヴロックの台頭/隆盛、そして社会現象化が、その最大級のものだったことはもはや説明不要だろう。その流れのなかで動いてた“ちっちゃなトレンド”のひとつが、トリビュートアルバムの連発だった。もともとコンピとかサントラが好きゆえ、トリビュートアルバムの類いも細かくチェックしてた。そのうちの1枚にけっこう響いた。それがこの、『FOR THE MASSES』(1998年)。DEPECHE MODEのトリビュートアルバムだ。ニューウェーブの流れから出てきた大物ベテランUKロックバンドだ。
トリビュートアルバムをはじめ、コンピ、サントラの好きなところは知らないバンドをそうした性格の作品を通して知ることができること、そしてそのなかからお気に入りバンドへと発展することがあること。さらにバンドは知ってるものの、彼ら自身のオリジナルアルバムではできないようなサウンドアプローチをサントラ、コンピなどへの提供曲で聴かせてくれる、ことなどが挙げられる。
この『FOR THE MASSES』には計16組が参加してる。ロック、インダストリアルロック、エレクトロ、トリップホップ、インディーロック、ヘヴィロック、メタル、ゴシックロック、デジタルロックと参加勢の音楽性は多岐にわたり、そして幅広い。
冒頭を飾るのはTHE SMASHING PUMPKINS。静かめなメロウアレンジで、囁くように歌うビリー・コーガンの声色は、聴いた瞬間誰が歌ってるかがわかる。続くはGOD LIVES UNDERWATER。日本正式デビューこそしてないものの、かのリック・ルービンに認められたインダストリアルロックバンドだ。次はTOOLと近しい関係を持つFAILUREで、ややダークなエレクトロアレンジを聴かせる。
THE CUREは言わずもがな、で、2曲飛んで、ブレイクビーツのMEAT BEAT MANIFESTO。それまでに彼らの作品を何作か聴いてて、インストのイメージか強かったけど、これは歌入り。穏やかに流れていくアレンジがいい。9曲目のLOCUSTはあのハードコアバンドのTHE LOCUSTとは別バンドで、音楽性も180度違う。これにはある意味驚いた(笑)。11曲目はややストーナーがかったロックンロールバンド、MONSTER MAGNET。第一聴時「なんかの間違いじゃない?」と思ったくらいいつものサウンドアプローチとは異なり、エレクトロ仕立て。ヴォーカルは間違いなくデイヴ・ウィンドーフその人だ。『FOR THE MASSES』収録曲のなかで一番驚いた。
本作を締めくくる2曲。最初がDEFTONESとRAMMSTEIN。DEFTONESに関しては、確かチノ・モレノに初めて対面インタヴューしたとき、影響を受けたアーティストのなかにDEPECHE MODEとDURAN DURANの名があったと記憶する。実に彼ららしいサウンドアプローチだ。RAMMSTEINはこの『FOR THE MASSES』発売が1998年ゆえ、サウンドメイキングがバンドの2nd『SEHNSUCHT』(1997年)のそれに近い。
この『STRIPPED』はシングルカットされてる。
BサイドにはNINE INCH NAILS人脈として知られるチャーリー・クラウザーによるリミックスが2パターン、KMFDM(当時)のギュンター・シュルツによるリミックスが聴ける。わりと静かないじり方がされてる。残念だけどリミックスは試聴してもらえる術がない。また、この曲でMVも製作されてる。
このMVは、映像作品『VIDEOS 1995-2012』(2012年)にも収録されてる。
なお、この『FOR THE MASSES』、USチャート入りし、ドイツのナショナルチャートのトップ20にも入ったそうだ。
また、GrindHouse fmの2019年8月3日放送で、『FOR THE MASSES』特集を組み、5曲かけてる。
有限会社グラインドハウス Copyright (C) GrindHouse Ltd. All Rights Reserved.