ARCHIVES

【2021.02.21更新】

ニューヨーク・ハードコアのまさに“伝説”のGORILLA BISCUITSの初来日公演時のライヴリポート再公開(https://grindhouse.site/archives-gorillabiscuits/)に続き、当日の開演前に実施したウォルター・シュレイフェルズ(g,vo)への対面取材記事を再公開する。
2009年3月31日発行のGrindHouse magazine Vol.53に“ザ・職人”の切り口第17回として掲載したものだ。

translation by Yuta Nakajima
photo by Wataru Umeda
reconstruction by Hiro Arishima

Walter Schreifels, RIVAL SCHOOLS/GORILLA BISCUITS, etc…

ソングライター兼ヴォーカリストとして現在のシーンに多大な影響を及ぼした奇才!!

奇跡の初来日を果たしたGORILLA BISCUITS(ゴリビス)。メインソングライターのウォルター・シュレイフェルズ(g,vo)は、ゴリビス以降もQUICKSANDやRIVAL SCHOOLS、WALKING CONCERTなどで活躍し、DEFTONES、THURSDAYといった多くの後続アーティストに多大な影響を及ぼした超重要人物だ。再結成して新作も制作中のRIVAL SCHOOLSを含め、これまでのバンド履歴を詳しく語ってもらった。

ーー結成から20年目での初来日となりましたが、あなたにとってゴリビスとはどんな存在ですか?
「今でもそうだけど、ゴリビスは友だちと一緒になってバンドをやること、音楽を作ることを楽しむバンドさ。7インチシングル『GORILLA BISCUITS』(1988年)なんて僕の兄貴の部屋で作った作品だしね。遊びの延長って感覚だったけど、その反響がよかったことで『START TODAY』を制作することになったんだ。あの作品が僕にとって初のクリエイティヴなプロジェクトだったよ」
ーーゴリビスの結成とほぼ同じくして、YOUTH OF TODAY(YOT)にも参加してますね。
「うん、ゴリビスを組んで7インチを作った直後に加入したんだ。僕自身大ファンだったし、参加できたことが素直に嬉しかったのを覚えてるよ。あのバンドでも多少曲を書いたけど、あくまでもレイ(・カッポ/vo)のバンドさ。彼の書く歌詞が大好きだったし、彼と一緒に作業をすることで多くのことを学んだよ。だけど、レイがもっと宗教的なバンド(=SHELTER)をやるためにYOTを解散させたんで、再びゴリビスに専念するようになったのさ」
ーーその後ゴリビスの解散にともない、QUICKSANDを結成しましたね。そこからあなた自身がフロントマンを務めるようになりましたが、やはりゴリビスとは異なる音楽性を求めていたのでしょうか?
「当時はもう、ハードコアをプレイしようとは思ってなかったんだ。それまではずっとハードコアソングを書き続けてきたからね。やっぱり音楽をやる限りはエネルギーのあるものを作りたかったし、同時にスゴく面白味のある音楽を作りたかった。ハードコアシーンから外に出て、新しい音楽をクリエイトする喜びと興奮を感じていたよ。ただ、初めてメジャーレーベルと契約し、いろんなスタッフと一緒になっての作業は苦労したね。それにメンバーも友だちというより、ミュージシャンの集まりだった。僕自身はヘヴィさを追求していたんだけど、周りは違う方向に目を向けていて言い争いが絶えなかった。だから、長くは続かなかった。もちろん、今も多くの人たちに影響を与えるほどのすばらしい音楽を作り上げることができたし、その点はずっと誇りに思っているよ」
ーーRIVAL SCHOOLSを再結成させただけに、QUICKSANDの再結成に対する期待も高まっていると思うのですが…。
「それはないね。僕にとってはRIVAL SCHOOLSだけで十分さ。それに、あのバンドは再結成なんてしない方がいいと思うんだ。当時のあの勢いはもう出せないと思うしね」
ーーもちろん音楽性の変化もあってのことと思いますが、バンド名を変えずにQUICKSANDのまま新しい音楽に挑戦することは考えなかったのでしょうか?
「まったく考えなかったね。だって2nd『MANIC COMPRESSION』(1995年)制作時だって、本当はもっと大胆にサウンドを変えたいと思っていたんだ。よりネガティヴでダークなものにね。ただ、その変化にすら不安を感じていたんだから。メンバーも違うし、まったく異なる音楽を表現するわけだから、新バンドとして臨むことしか考えなかったよ。RIVAL SCHOOLSはQUICKSANDで苦労した分、もっと友だちとしても付き合えるミュージシャンと一緒にやりたかったんだ。実際、今でも友だちだからこそ再結成することもできたしね。音楽的には多少軽めながらも力強さは意識してたかな。もともとハードコアシーンで育ってきた自分が、ワシントンD.C.で流行ってたポストハードコアの流れを取り入れ、よりポップに表現したのがRIVAL SCHOOLSさ」
ーーなぜ今になってまたRIVAL SCHOOLSを再結成させたのでしょうか?
「自然とみんなで集まるようになったんだよ。ずっと新しい作品を作りたいと思っていたし、ちょうどいいタイミングだったから。実際、アメリカとヨーロッパを廻ったツアーも好評だったし、どんどん気持ちが高まっているんだ。レーベルとも今話し合っているところなんだけど、僕たちが当時作った音楽をとても高く評価してくれてるし、新作に対する期待も大きいから、うまくリリースも決められそうだよ。次はRIVAL SCHOOLSで日本にきたいね」
ーー続いて、その後結成したWALKING CONCERTでは、それまでの流れから離れ、一気にソフトでアートな方向に進みましたね。よりミュージシャンとしての可能性を追求したのではないでしょうか?
「そうだね。別にアグレッシヴな音楽をやめたわけじゃなくて、もっと静かで落ち着いた音楽を作りたかったんだ。歌詞の内容も変え、これまでとは違った形でみんなに接してもらいたかった。WALKING CONCERTは僕にとってもっともクリエイティヴなプロジェクトで、そこで作り上げた『RUN TO BE BORN』(2004年/日本盤未発売)は一番好きな作品だよ。それまでに作り上げたものとはまったく異なる音楽に挑戦し、そのなかに自分らしさを入れることもできた。ツアーも最高だったけど、残念ながら人気を得られなかったことで、バンドとして活動を継続できなかったんだ。実はRIVAL SCHOOLSの新作と同じく、ソロ作も制作する予定で、WALKING CONCERTに近い音楽性になると思うよ」
ーー現在、ゴリビスを含めると一気に3つのプロジェクトを抱えているわけですが、大変じゃないですか?
「RIVAL SCHOOLSはバンド形態で新しい音楽をクリエイトする楽しみがあるし、ソロプロジェクトは自分に対する挑戦。で、ゴリビスに関しては“特別なバカンス”って感じだよ。それぞれ異なる楽しみがあるし、タイプも別だからいい組み合わせなんだよね。これが今、僕の抱えているプロジェクトの総てさ」
ーー今やゴリビスはあくまでも楽しみのひとつかもしれないですが、当時活動していたシーンのなかでは、どのプロジェクトも戦いだったと思います。そういった意味では、今だからこそ、こうして3つのプロジェクトを平行させることができるのではないでしょうか?
「そうだね。あの当時はハードコアシーンにいて、そのなかで生き抜く必要があったんだ。だけどRIVAL SCHOOLSはどこかのシーンに所属しているわけじゃないし、僕のソロも同じだよ。あくまでもバンド自身、そして自分自身に対する挑戦さ」

最後に、5th『COMMON EXISTENCE』(2009年)にゲスト参加してもらうなど、ウォルターからの多大な影響を口にするTHURSDAYのジェフ・リックリー(vo)に、ウォルター、そして大ファンだというQUICKSANDに対するコメントを別の機会にもらえたので付け加えておく。

「ウォルターの歌声にはものスゴくエネルギーを感じたね。歌に込められたスピリッツに惹かれたんだよ。彼を見て自分も歌うようになったし、技術よりもフィーリングが大事だってことを痛感したんだ。QUICKSANDのライヴには本当によく通ったよ。あまりに激しくて、時々恐怖を感じたほどさ。全身に電気が走るような感じのライヴだったね。俺が求めていたすべてをあのバンドはドラマティックに備えていたんだ」

そして、ウォルターが作ってきた3作品も紹介しておく。

GORILLA BISCUITS/『START TODAY』(1989年)
レーベルのRevelation Recordsとともに伝説と化した彼らの初フル作にしてラスト作。ポップセンスを発揮しつつもきっちりブレイクダウンを取り入れたスピード感あふれた展開が見事。ニューヨークハードコアの全盛期にポップな独自路線で人気を集め、ハードコアはもちろん、現代のメロディックパンクロック勢にも多大な影響を与えた歴史的名盤だ。

QUICKSAND/『MANIC COMPRESSION』(1995年)
1993年のデビュー作『SLIP』に続く2nd。ノイジーなギターサウンドとうねるベースラインでTOOLにも通じるヘヴィロック的ダークな世界観を持ちながら、メロディオリエンテッドな点も魅力だ。サウンドの質もあるが、アンダーグラウンドなヒリヒリ感も詰まった内容は、今聴いても突き動かされるエネルギーがある。

RIVAL SCHOOLS/『UNITED BY FATE』(2001年)
若干ダークなサウンドとドライヴ感の強いリズム、そしてなによりエモーションを前面に押し出した歌声が魅力。今ほどエモという言葉が普及する以前、ポストハードコアからの転換期に出現し、注目を集める前に解散と、時代の波に乗り損ねた感が強く、ぜひこの機会に再評価してもらいたい1枚だ。オルタナティヴロック好きにもオススメだ。

有限会社グラインドハウス Copyright (C) GrindHouse Ltd. All Rights Reserved.