【2020.12.07更新】
ありしの日のThursday…
Text by Hiro Arishima
Photo by Micah Smith(FUSE MEDIA)
Shoko Ishikawa
“エモバンド”THURSDAYの2nd『FULL COLLAPSE』(2001年)の本国アメリカでの大炸裂の仕方は、尋常じゃなかった。まさに向かうところ敵なし状態で、バンドがものスゴいスピードで成功への階段を駆け上がってるかのように映った。それがいったいどのくらいのものなのか、またそれが放つエネルギーの強さ、熱さとはどれ程のものなのかをこの目で見て、この肌で感じたくて、『FULL COLLAPSE』ツアーのただ中にあった彼らを、カリフォルニア州サンディエゴの中規模なライヴ会場に観にいった。確か2002年初頭から春頃の間の時期だったと記憶する。まず、会場近くでグループショットの撮影を行った。
撮影終了後に彼らのツアーバスに場所を移し、車内でバンドに初対面取材した。フロントマンのジェフ・リックリーをはじめみな総じて穏やかで物静かな人たちだった。
取材終了後、いよいよライヴ観戦。このツアーは同じ頃、頭角を現し始めたメタルコアバンド、POISON THE WELL(PTW)とのWヘッドラインツアーで、THURSDAYの前に出たPTWのライヴも圧巻だった。そしてTHURSDAYのライヴも、また違った意味で凄まじかった。場内は2,000人強の観客で埋め尽くされてた。客電が落ち、バンドがステージに登場するや、耳をつんざくような大歓声が一斉に上がり、場内いっぱいに響き渡った。それからは説明不要だろう、大小のカオスがあちこちで派手に跳ねまくり、一気にテンションがピーク値に達した。驚いたのが、かつてジョナ・マトランガ率いたFARの絶頂期にあった頃のライヴでも似たような光景を目撃したのだけど、ガ体もがっしりし、タッパもある男子ファンの多くがみな目を閉じ、ジェフに合わせて大声で歌い、合唱してるのだ!こういっちゃ身も蓋もないのだけど、その行為と、がっしりしててタッパもある男子ファンの姿がどうにもこうにも結びつかず、しばらく戸惑いっぱなしだったことを覚えてる(笑)。そう、宗教的、カルト的なムード、ヴァイブみたいなのを強く感じたのだ。
ここまでの存在になってるバンドを、メジャーレーベルがほおっておくわけがない。数社間で、日夜熾烈な獲得合戦が繰り広げられてた。もっとも熱心だったのはMCA Records(現在Universal Music Group)だったと言われた。だけどバンドはMCAのオファーに首を縦に振らなかったため、それに業を煮やしたMCAは当時バンドが所属してたインディーレーベル、Victory Recordsの買収に動いた。「MCAがVictoryを買収する模様」と欧米の音楽メディアも一斉に報じた。結局、この話は現実のものとはならず、なぜ流れたのかは不明だ。それにしてもスゴい話だ。MCAはなにがなんでもTHURSDAYがほしかったんだろう。そのためならバンド所属のインディーレーベルを丸ごと買う、なんていうスケールのデかい計画も進めたんだろう。音楽シーン/業界がまだ潤ってた頃の話だ。今じゃ絶対にあり得ないことだ。そうした経緯を経て、バンドはIsland Recordsと契約、2003年に3rd『WAR ALL THE TIME』でついにメジャーデビューしたのだった。2004年にはTAKING BACK SUNDAYのページでも取り上げた(https://grindhouse.site/postergallery-vol-14/)VANS 10TH ANNIVERSARY WARPED TOURに帯同し、各地を巡演した。
このときのWARPED TOURをロサンゼルス郊外で観たけど、観客はもう、ずっと大合唱しっぱなしで大変な盛り上がりようだった。『WAR ALL THE TIME』に続き、バンドは4th『A CITY BY THE LIGHT DIVIDED』(2006年)を出した後にIslandを離脱、Epitaph Recordsへと移籍した。この写真は2006年にフェス参戦で初来日したとき、東京都内で撮影されたグループショットだ。
Epitaph移籍後、5th『COMMON EXISTENCE』(2009年)と6th『NO DEVOLUCIÓN』(2011年)が発売された。下記のビニール製ショッピングバッグはEpitaphが製作し、WARPED TOUR 2009の会場でプロモーションの一環として無料配布したものだ。
『FULL COLLAPSE』をまだ未聴の人はぜひ、一度聴いてみてほしい。普段、記事を執筆する際、自分はほとんど“名作”とか“最高傑作”とかの言葉を使わないようにしてる。そういう類いの言葉を頻繁に使うと、その作品の“重み”が希薄になってしまうからだ。それでもあえて言う、この作品は“名作”だ。2ndにして早くもこの、独自性の確立度の高さと、全体の完成度の濃さはすばらしいの一言につきる。
ちなみに、ジェフはマイケミのデビュー作『I BROUGHT YOU MY BULLETS, YOU BROUGHT ME YOUR LOVE』(2002年)をリリースしたEyeball Recordsの共同経営者であり、同作のプロデュースもした。
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